子どもの教育費は、学費に加え、塾や習い事などの費用を含めると相当な額になる。一方で、「子どもの頃にやらせるべきこと」の情報は、実に多岐にわたる。そのため、子どものために何を学ばせるのが一番良いのか、「将来子どもがどうなれば教育が成功したと言えるのか」と頭を悩ませている親も多いのではないだろうか。たとえば、「将来稼げる大人に育てる」ことも一つの教育の成果と言える。では、そのために「今、しておくべきこと」は何か。教育経済学者である中室牧子氏は、著書『科学的根拠(エビデンス)で子育て』で、国際的に権威ある学術雑誌に掲載された信頼性の高いエビデンスに基づいて、子どもの頃にしておくべきことを解説している。本書の内容をもとに、その内容を紹介する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
![科学的根拠(エビデンス)で子育て](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/4/1/750/img_412b8283c25318d8676d776107893194173175.jpg)
子どもの習い事、何がいい?
「語学は幼少期から始めた方がいい」「情操教育には音楽や絵画がいい」など、世間で「子どもの頃からしておいた方が良い」と言われていることは非常にたくさんある。
とはいえ、習い事にはそれなりにお金と時間がかかるもの。「良い」と言われているものを片っ端から習わせるわけにもいかない。
多くの親は、「何が一番この子の将来に役立つのだろう」と頭を悩ませているのではないだろうか。
さらに、「子どもがどういった状態になっていればいいか」と考えるかもなかなか難しいものだ。
子どもが将来「稼ぐ力」を身につけるために
大人になった私たちが考える「成功した」と考える判断基準の一つに、「高い収入を得られること」が挙げられる。
稼ぐ力を持つこと、お金に少しでも苦労しないことは、子どもたちの将来を考える上で重要なことだ。
中室氏も本書で次のように述べている。
これまでの日本では、将来の高い収入や安定した生活を求めて「良い大学を出て、良い会社に就職すること」が声高に推奨された。
しかし、「VUCAの時代(先行きが不透明で将来の予測が困難な状態)」と言われる現代において、その考え方で必ずしもうまくいくとは限らないということも、私たちは知っている。では、一体どうしたらいいのだろうか。
スポーツが収入に影響を与える2つの理由
中室氏は「将来しっかり稼げる大人に育てる」方法の一つに、「子どもたちがスポーツをするように仕向けること」を挙げる。
子どもの頃のスポーツ経験が、将来の収入に良い影響を与えることを明らかにしたエビデンスは多くあるのだそうだ。
どうして子どもの頃のスポーツ経験が、大人になってからの収入を上げるのか。中室氏は次の2つの理由を挙げる。
1つ目は、企業がスポーツ経験のある人を好んで採用したいと考えるからです。
ノルウェーで行われた研究は、求人を出している企業に対して、写真や経歴などはすべて同じで、スポーツ経験の有無だけが違う架空の履歴書をランダムに送り、面接に呼ばれる確率にどのくらい差が出るかを調べました。
その結果、スポーツ経験があると書かれた履歴書を送ると、面接に呼ばれる確率が約2ポイントも高くなることが示されました。(P.22)
前出のノルウェーの研究は、大規模な行政記録情報(出生届など、行政が日々の業務を通じて記録した情報)を用いて、同じ家庭で育った14万人のきょうだいを比較する研究もしています。遺伝的にも似ており、同じ家庭で育ったきょうだいのうち、片方がスポーツをして、もう片方がしなかったケースで、将来の収入にどれくらい差が出るかを調べたのです。(中略)
分析の結果、きょうだいのうち、スポーツをしていたほうの年収が、スポーツをしていなかったほうよりも約4%高いことがわかりました。(P.22-23)
このように、スポーツ経験があることによる賃金の上乗せ分を、スポーツの「賃金プレミアム」と言うそうだ。
スポーツが効果を発揮するのは小学校から高校生まで
スポーツをさせると良い、と言われても「スポーツをすると、その分勉強をする時間が削られるのではないか」と不安になる親もいるかもしれない。
しかし、中室氏は「週1~2回のスポーツは、週に30分程度テレビやスマホを見る時間を減らすことを示したエビデンスがある」と語る。
さらに、「スポーツをすることが学力を高めることもわかっている」と主張する。
ところが、小学校から高校生のあいだにスポーツをすることは良い効果があるというエビデンスが多いのに対して、「大学生については研究の結果が分かれている」と中室氏は指摘する。
スポーツの効果が大きく出るのは女子
また、中室氏は「スポーツの効果には、異質性があります」と語る。
異質性とは、経済学者がよく使う専門用語の1つで、個人の特徴や属性によって異なる効果が生じることを言う。「性別の異質性」と言えば、男女で効果が異なることを意味する。
そして、「スポーツの良い影響は、女子の方が大きいという、複数のエビデンスがある」と中室氏は指摘する。
そして、ミシガン大学のベッツィ・スティーブンソン教授の研究においては、次のようなこともわかっている。
子どもにはぜひスポーツをやらせよう
このように男女ともにスポーツをすることで、就職した後の給料が上がったり、学力に良い影響が出たりしている。
であれば、子どもの頃に「スポーツをやらせない」のはもったいない。健康にも良く、学力や将来の収入にも影響するなら、やらせない理由がない。
中室氏は特定のスポーツを推奨していないため、まずは複数のスポーツを体験させ、子どもが興味を持って続けられそうなものを選ぶことをお勧めする。
今から子どもの習い事を検討する方がいるなら、ぜひ何かスポーツを取り入れてみてはいかがだろうか。