私たちニューロマイノリティ(編集部注/神経学的少数派=注意欠如多動性障害や自閉スペクトラム症などの症状を持つ人のことを非病理的に捉えなおした表現)は「天才なのかおバカさんなのか」と困惑されがちな人々なんです。さらに竹馬の材料の探索はこんなふうに描写されます。
ムーミントロールは2つに折れた、西の航路の標識を発見しました。スノークのおじょうさんは、ほうきの柄と船のオールを見つけました。スナフキンは、つりざおとはたざおを、スニフはつる草の支柱と、こわれたはしごを見つけました。ところがスノークは、わざわざ森までもどって、きっちり同じ長さの細いもみの木を2本、持ってきたのでした。(『彗星』p.147)
その竹馬で歩く練習を始めますが、その様子もバラバラな印象を与えます。ニューロマイノリティの特徴は、他者にシンクロしづらいということです。
ニューロマジョリティが互いに同調しあって、協働しながらことに当たるのを得意とするのと反対です。そのニューロマイノリティたちのバラバラな動き方が、ムーミン・シリーズに登場するキャラクターたちの最大の特徴のひとつです。
ニューロマイノリティの私としては、このように「みんなちがって、みんないい」(金子みすゞの詩「私と小鳥とすずと」の一節)という場面が頻出するところに、ムーミン・シリーズを読む最大の喜びがあると感じるほどです。
スニフの振る舞いから見える
ニューロマイノリティならではの特徴
登場するキャラクターのうち、私がいちばん気になるキャラクターはスニフです。かわいい子ネコや洞窟を発見するなど独自の物語がくっきりあって、「もうひとりの主人公」と呼びうる存在感を見せています。
おそらくムーミントロールの分身的な存在として理解できますが、ムーミントロール自身がトーベの分身と考えられるため、作中にはトーベの分身的キャラクターが複数登場するということになります。このじぶんに対する関心の集中に、ニューロマイノリティ的な「自閉」が見え隠れしているかもしれません。スニフは「愛すべきおバカさん」だということが好んで描写されていて、たとえば発見した洞窟についてムーミンママに話すときは、こんなふうに言います。
「ぼくは、はじめが『ど』で、おわりが『つ』のものを見つけたよ。そしてね、まん中に『う』や『く』があるの。でもそれ以上は、いえないや!」(『彗星』p.21)
スニフは旅の途中で疲れて「ぼく、めまいがする」「げろをはいちゃうぞ!」と言ってムーミントロールやスナフキンを困らせたりと、読者にとっては「うざい」と感じさせやすいキャラクターです。