野原ひろしは庶民じゃない?『クレしん』最新作「勝ち組」ひろしに違和感の声Photo:VCG/gettyimages

『クレヨンしんちゃん(※以下、クレしん)』映画シリーズの新作『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』が8月4日に公開された。本作はシリーズ初の3DCGアニメということで話題性も十分だったうえに、その内容も特異性を備えており、注目を集めた。本作は、この国民的人気を誇るアニメ映画シリーズの、今後を占う重要な位置づけになるのではないかと、個人的には見ている。なお、本稿ではネタバレを極力避けるつもりである。(フリーライター 武藤弘樹)

ひろしの言葉が刺さらない?
受け手の変化が認識された今作

 今回特に注目されているのは、しんちゃんの父・野原ひろしの発言で、ひろしといえば「名言製造機」として有名である。
 
 映画『クレしん』シリーズを見る大人のファンは、ひろしの名言と活躍を期待している。ひろしの名言は、水戸黄門で悪役をひれ伏させる印籠と同格の、ファンが求めているお約束である。

 今回の新作映画でも、ひろしらしさを感じさせる熱い言葉がスクリーンから放たれたのだが、これが一部の人たちから「心に響かない」と指摘されている。それはなぜか。

 ごく簡単に言ってしまうと、「時代の流れ」である。

 ひろし自身のキャラと主張にブレはなく、今年の映画でも“ひろし然”とした姿を示したひろしだったのに対し、それを受け止める観客側では時代の流れによる価値観の変化が起きていて、ひろしに共感しにくくなっていた。“毎年変わらぬひろしらしさ”と“変わっていく人々の価値観”はおそらく少しずつ、気づかれにくい程度に徐々に乖離(かいり)してきていたのだが、そのズレがいよいよ目に見えて認識されたのが今作であった。