トーベは島や海辺をこよなく愛していました。じぶんのことを「島と恋に落ちた女」と呼んだこともありました。もしかしたらトーベは、私に似た体験世界ゆえにムーミン世界を水と身近なものと設定したのではないか、とも思うのです。あるいは、そもそもそのような体験世界が原因で──私自身もそうなのですが──島や海辺に対する親近感を深めたのではないでしょうか。

『ムーミン谷の彗星』でムーミントロールは水に潜り、水からあがり、川をくだって旅を進め、浸水した難破船に侵入します。じゃこうねずみは雨が降るなかムーミン一家を訪ねてきて、へムルは足を川に浸しています。このような水への親しみ方は、ニューロマイノリティの独特の「こだわり」を感じさせます。

昆虫採集や切手収集には
ニューロマイノリティの特性が反映されていることも

 さらに大事なポイントですが、「こだわり」の特性ゆえに、ニューロマイノリティはしばしば大収集家です。ニューロマイノリティに職業選択の指針を説いている本などを読むと、ニューロマイノリティにとって相性の良い職業は「こだわり」を活用できる専門職、たとえばITプログラマー、研究者、芸術家などだと書かれていることが、とても多いのです。哲学者のじゃこうねずみ、昆虫採集に耽るへムル、切手収集に耽るへムル、ハーモニカによる作曲を愛するスナフキンは、みなニューロマイノリティとしての特性に恵まれたキャラクターたちだと言えます。

「こだわり」と言えば、ムーミン・シリーズをつうじて何度も同じモティーフが反復されるのも、トーベの「こだわり」を感じさせます。スノークのおじょうさんとムーミントロールの出会いは、『小さなトロールと大きな洪水』で描かれたチューリッパと赤い髪の少年の出会いの変奏と言えます。またスニフがじぶんの愛する子ネコが、世話を焼いてくれるムーミンママをじぶんよりもっと愛してしまうんじゃないかと不安になる様子は、のちに『ムーミン谷の仲間たち』に収められた「世界でいちばん最後の竜」で反復されるモティーフです。