「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。
「いい人生」を定義した1枚の図
本書では、1枚の図を使って、時間資本を適切に投資することで人的資本が生まれ、人的資本が社会資本を生み出し、社会資本が金融資本を生み出すということを説明してきました。では、これらの資本とウェルビーイングにはどのような関係があるのでしょうか?
ウェルビーイングに関する研究はまさに百家争鳴の体を成しており、何がウェルビーイングを実現するための鍵なのかについても、さまざまな意見がありますが、それらの研究を俯瞰して、最大公約数となる要素を抜き出せば、次の3つに整理することができると思います。
いい人生の最大公約数となる3つの要素とは?
①自己効力感
自分に能力があり、何か意義のあることにそれを十分に活かすことで成長できているという実感、誰かの役に立つことで自分もまた高めているという実感を持っていること。
②社会的つながり
職場や取引先から信頼・信用されているという実感、コミュニティ内の知人や友人や家族と友愛的・親和的な関係を築けているという実感を持っていること。
③経済的安定性
経済的に安定しており、多少のことがあっても通常レベルの生活を維持していくのに不安がないという実感を持っていること。
ここまで読まれて鋭い読者の方は気づかれたでしょう。そう、この3つはそれぞれが人的資本・社会資本・金融資本に対応しているのです。ここで時間資本がやっとウェルビーイングに接続されました。
特に注意が必要なのが、ともすれば「キャリア論」において、大きくフォーカスが当たりがちな「金融資本」は、ウェルビーイングを生み出すための一要素にしか過ぎない、ということです。
確かに、現在の日本においてウェルビーイングの状態を実現しようとすれば、一定水準の金融資本が必要なことは確かです。しかし、金融資本は一定の水準を超えてしまうとウェルビーイングの実現に貢献しないということがわかっています。さらに指摘すれば、多くのウェルビーイングに関する研究は「豊かな社会資本=友人や家族との関係性」が最も幸福実感に貢献することもまた明らかにしています。
もし、そうなのであるとすれば、私たちは、金融資本を過度に追求することで「人的資本」や「社会資本」の形成をなおざりにしてしまい、本当の意味での「人生の敗者」になってしまう愚を厳に戒めなければなりません。
しかし、これがなかなか難しいのです。金融資本の誘惑は常に強力で、私たちはともすれば、3つの資本の優先順位を忘れ、金融資本の形成に自分の時間資本を過度に傾斜させてしまうという愚行を犯してしまいます。
重要なのは、世間でもてはやされているような「成功のイメージ」の虚像にとらわれず、自分にとって本当に大事なものは何か? という論点を常に「人生というプロジェクト」の中心においてぶらさないことです。