この連載は、ロングセラー『コンセプトの教科書』の著者で、株式会社TBWA\HAKUHODOチーフ・クリエイティブ・オフィサーの細田高広氏によるものです。本書の読者からは「教科書の名にふさわしい本!」「センスがなくてもコンセプトを作れることに感動した」「何度も読み返したい名著」など、喜びの声が多数寄せられています。
細田氏は、グローバル企業、注目のスタートアップ、ヒット商品、そして行列ができるお店をつくってきた世界的なクリエイティブ・ディレクター。新しいものをつくるとき、考えるとき、役立つヒントが必ず見つかるはずです。

【思考力チェック】ヒッチハイクで東京から新潟へ行きたい時、「頭のいい人」はスケッチボードに何と書く?Photo: Adobe Stock

ヒッチハイクを成功させる言葉とは?

 これはあなたのコミュニケーションの癖をみるための質問です。
 ヒッチハイクのシーンを想像してください

・あなたは東京の国道沿いに立っていて、新潟まで連れて行って欲しいと考えている。
・お金はない。
・使えるのは一冊のスケッチブックとマジックペン。

 さて、この状況であなたならどのような言葉を書いて、ヒッチハイクを成功させるでしょうか? 1分でもいいので考えてみてください。

意見を通す「鍵」は相手の中にある

 意見を通すのが苦手な人はずっとスケッチブックとにらめっこして、新潟まで行きたい!ということをどう言い換えるかを考えます。

 一方、コミュニケーション能力の高い人は真っ先にドライバーのことを想像し、「どうしたら私を乗せたいと思えるか?」とドライバーの気持ちになろうとするのです。

 すると「いつものランチに飽きているかもしれない」から「とびきりのラーメン屋を教えます」とか、「話し相手を探しているかもしれない」から「何時間でも話を聞き続けます!」と言ってみたらどうだろうか、とアイデアを膨らませていくのです。

 つまり、自分のしたいことを、相手のしたいことにしようとする。これが意見を通す上では決定的に重要な態度になります

必要なのは、相手の利益に翻訳する力

 人は基本的に、自分にメリットがあると感じたときに行動を起こします。ですからあなたの意見を「相手にとってそれが有益である」と感じてもらう変換力が重要になるのです。

 もしもあなたが、新しい業務ツールを導入して作業を楽にしたいと考えたとします。それをそのまま上司に伝えても単なるわがままで片付けられるでしょう。そこで、これを相手の利益を語る言葉に翻訳したらどうなるでしょうか。

 たとえば、上司の課題が「忙しい日々の中で部下をどう管理するか」なのであれば「このツールでメンバーの進捗管理が一目でわかるようになり、マネジメントの負担が減りますよ」と伝える。

 このように頭のいい人は、提案がどのように相手の利益に直結するのかを具体的に示すことで、相手に「この意見を採用する価値がある」と思わせるのです。

「意見を通す力」とは、相手の心を動かす力。その鍵は、あなた自身ではなく、相手の中にあります。この原則を意識するだけであなたの提案やアイデアは、よりスムーズに受け入れられるようになるでしょう。

(本記事は、『コンセプトの教科書』の著者・細田高広氏が特別に書き下ろしたものです。)