私は遠藤氏には、広報部長時代に何度かお目にかかりました。作家・遠藤周作氏の子息ということもあって、常識も教養も兼ね備えた立派な人だと思っています。もちろん民放連の会長ともなれば、社内のことは社長任せとなり、この事件を知らなかった可能性もあります。しかし、それならなおのこと、綱紀粛正と被害女性の救済には全力を注ぐべきです。
『海と毒薬』に見る日本人の欠点
テレビは信頼を取り戻せるか
父の遠藤周作氏には『海と毒薬』という名作がありました。太平洋戦争中に行われた敵兵の人体実験に参加した日本人科学者の心情を描いた作品ですが、日本人の欠点を深く考察した作品です。その象徴が、以下の一説です。
「良心の呵責を感じながらも、人体実験への参加を呼びかけられ、強い反発もせずに漫然と関わってしまう。日本人には集団心理で平凡な人格の持ち主たちが非道に転んでしまう」
まさに中居問題でのフジの対応は『海と毒薬』の日本人そのものであり、遠藤氏には父親の名作が残した「日本人論」の意味を今、深く自らに問いかけてほしいと思います。
さて、最後に中居正広氏のコメントに戻ります。「今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」という部分は余計だというのが多くの識者の意見ですが、実際、どうやったら芸能活動を再開できるのでしょうか。
テレビはスポンサー収入が中心です。中居氏が復帰するためには、被害者に解決金を9000万円も支払うような「犯罪的行為」をどうやってしたのかを具体的に説明しない限り、スポンサーは納得できません。しかし、当事者間には守秘義務が存在し、中居氏はそれを説明することができません。
仮に女性側が譲って中居氏にある程度の説明を許した場合でも、たとえば企業CMは1人の社員の決済では決まりません。宣伝部から始まり、最終的には役員会の承認まで必要なはずです。その間、多くの人間が「被害」の実態を知ってしまい、守秘義務などなきに等しい状態になります。
そもそも守秘義務は、被害女性の尊厳を守り、再起を応援し、再発の防止を図るためにとられた措置です。その意味で、最後のコメント自体が中居氏の犯罪の自覚、謝罪の意識が希薄であることを示しています。ジャニーズ問題、松本人志問題と、テレビ局の姿勢は芸能人、芸能事務所に極めて甘いことが露呈しました。これでは、テレビへの信頼はますますなくなってしまうでしょう。
(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)