たとえば、私が所属していた文藝春秋で、売れっ子作家が女性編集者を密室に招き、二人きりになってこのようなトラブルを起こしたら、社はその作家と絶縁するか、社員に対する大きな賠償責任を求めるでしょう。文春に限らず、普通の会社なら関係者が業務上で受けた被害について、彼らを守る行動をとるのが当然です。

 その上、被害女性はショックで「精神疾患」を患ったと言われます。これは一般的に考えて、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した可能性が高いと思います。心の病が業務上の理由で発生した場合、会社はその責任の相当部分を背負うことが労働法で定められています。遅刻や休業が多くなっても、それを理由に解雇することは法律で禁止されているのです。しかし、彼女が退社を決断する経緯や、それに対する会社の対応について、フジテレビは発表していません。

被害女性に「仕事をするな」と
言っているようなもの

 こうした事件が起これば、被害女性に対してだけでなく職場環境の調査をするのも、企業としてまた当然のことです。ましてや、ジャニーズ問題以降、性加害が本人だけでなく所属する組織の問題であるということは、フジテレビの報道番組でも何度も取り上げられているはずです。にもかかわらず、関係者が「被害」を受けたのに中居氏を調査もせず、ずっと番組に出し続けていたことになります。

 これは被害女性の心情を考えれば、「会社に出社したくなくなる」、つまり「退社したくなる」ような気持ちにさせる行為です。なにしろ、中居氏によりPTSDを発症したとすれば、会社や職場、あるいは映像で彼を見るだけでも、大きなストレスを被る可能性があるからです。

 フジテレビの怠慢な対応の結果、被害女性は自分で精神疾患の治療を受け、そして自分で弁護士を探したといいます。自分で探したということは、業務上受けた被害に対して賠償を求める費用を自分で負担したことになります。文春とフジテレビでは企業の規模が全然違いますが、メディアに関わる会社にとって、報道やエンタメの現場を守る思想も法律も、違うはずはありません。

 そして私は、フジテレビの港浩一社長の今回の件に関するコメントを読んで、仰天しました。中居氏のコメントが出た直後の1月10日、港社長は全社員に向けて以下のようなメールを送信しました。

「職務に誠実に対応していた人が悪く書かれることは本当に残念」「社長として全力で皆さんを守ります」「社員を守る温かい会社でありたい」