ネットゼロ達成のための理想的な投資資金の配分
「マインド・ザ・ギャップ(ホームと列車の隙間にご注意ください)」――。ロンドンの地下鉄で毎日耳にする、乗客の安全への注意喚起である。ネットゼロに向けても同じことが言える。すなわち、実体経済の脱炭素化のために投資が必要な地域やセクターと、実際の投資資金が向かっている先とのギャップに注意する必要がある。これまでこのギャップがあまり強く意識されてこなかったことについて、本連載の第1回で述べた。
当社はコロンビア大学サステナブル投資研究所と共に、こうしたギャップを科学的に測定するための「クライメート・アロケーション・コンパス(CAC)」を開発した(注1)。今回は、CACの中で最も重要な測定方法である統合評価モデル(IAMs、注2)を用いたギャップ把握手法を中心に紹介する。
IAMsは、特定の気候関連政策や技術の道筋が気候変動問題に与える影響について、政策立案者や気候専門家が評価するためのモデルだ。例えば、中国経済が現在の2倍のスピードで成長した場合に世界の炭素排出量とエネルギーシステムに与える影響や、欧州の電気自動車に関する政策変更が世界の炭素排出量に与える影響といったシナリオ分析が可能である。
IAMsが用いるのは公開データであり定期的に更新されるため、気候関連政策の変化や気候関連技術の進化を捉えることができる。技術の中には、まだ研究開発段階にあるものや、水素還元製鉄のように大量導入にはコストがかかり過ぎるものもある。一方、太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギー技術は、すでに従来型エネルギー源と競争を繰り広げている。IAMsはこうした技術の実用可能性も考慮する。