伝統的指標の問題点と将来志向指標のメリット
前回は、将来志向の気候指標の重要性について説明した。今回は、事例を用いながらより具体的に当該指標について説明するとともに、こうした実体経済の脱炭素化に資する指標が標準化される上での課題について述べたい。
現在最も広く使われている気候指標が二つあり、温室効果ガス(GHG)排出量を当該企業の売上高で除した「炭素強度」と炭素強度にポートフォリオの保有割合を乗じた「WACI」(Weighted Average Carbon Intensity)である。
一方で、前回も触れた「削減貢献量」や「カーボンインパクト比率」(削減貢献量÷当該企業のGHG排出量)は、将来を見据えた有益な気候指標である。これ以外にも、「気候ガバナンス方針」(役員報酬制度へのESG指標の導入)や「クライメートターゲット」(企業の脱炭素化に向けたターゲットの設定状況)などがある。
既存の気候指標の問題点について、炭素強度と削減貢献量を例に説明したい。図表1は再生エネルギーの積極的な活用により脱炭素化を進める公益企業A社と、一般にGHG排出量が低いとされるIT企業B社の、t年度における炭素強度と削減貢献量のイメージ図である。t-1年度のデータに基づく炭素強度ではB社の方が「現時点の排出量自体は低い」が、t+1~t+4年度までの将来の推計データを用いた削減貢献量で見るとA社の方が将来の排出量の削減(=実体経済の脱炭素化)に資することが分かる。
このように、将来の排出量の変化については、炭素強度のような過去のデータのみに依拠する指標ではなく、削減貢献量のようなフォワードルッキングなデータを用いた将来志向の気候指標でこそ把握が可能になる。