中高一貫ラッシュで「予備校化」する高校、生徒の自殺未遂も相次ぐ“受験狂騒曲”の実態写真はイメージです Photo:PIXTA

昨今、過熱する「中学受験」は都市部だけでなく地方にも広がりつつある。都内の御三家に地方から通学するだけでなく、名門公立高校に附属中学が作られるなど「中高一貫化」が進んでいるようだ。中高一貫により、高校が「大学合格だけを目指す予備校」と化したとき、一体どのような問題が発生するのだろうか。本稿は、小林美希『ルポ 学校がつまらない――公立小学校の崩壊』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。

地方でも過熱する
「中学受験狂騒曲」

 これは決して都市部だけの話ではない。福島県、群馬県、茨城県、静岡県などから都内の御三家に新幹線や特急電車で通学するケースも珍しくはなくなっている。地方でも名門公立高校に附属中学が作られ中高一貫校になると、その地元は“受験狂騒曲”に巻き込まれつつある。

 関東地方のある名門進学高校の関係者は、「生徒の自殺未遂が相次いでいる」と明かす。偏差値が70以上で県内トップの公立高校に附属中学ができて校長が変わると、それまで自由だった校風が一変。校長が目指すのは、東大や京大、医学部に何人合格したか。

 その複数の関係者は「高校が大学合格だけを目指す予備校化していき、たちまち学生から多様性が奪われていきました。中高一貫になると、一層と高校が予備校化してしまった」と心配する。

 地元の塾は早速「県立○○高校附属中学に何人合格!」という看板を出してPRしている。受験塾で課題を与えられ、親から言われたことをそつなくこなしてきた“いい子”が合格してくるケースが増えているように見えるという。前述の学校関係者は、中高一貫校になってからの様子をこう語る。

「それまでは中学受験は地元では一般的ではなく“特殊な世界”だったのに、小学4~5年生から受験塾に通わせる家庭が、じわじわと増えていきました。結果、入学式には小綺麗な恰好の母親に連れられた“いい子”ばかりが来る。生活が苦しいなかで頑張って合格したのだろうと思わせるような親子は見当たりませんでした」

 中学受験で先に「名門校」の椅子を勝ちとることができるのは、費用がかかる受験塾に通うだけの余裕がある家庭となるだろう。中学で受験すれば、高校受験の土俵で競わなくても競争が激しくなる前に席を確保できる。その分、高校から入学できる定員が減ってしまうため、それまで高校受験で合格できたはずの受験生が落ちることもある。

海外に修学旅行
富裕層が多い公立附属中

 実際、名門高校の合格者を多く出していた公立中学校の合格者数が減るという影響を受けており、県立高校に附属中学を作るということは地域の進学のバランスを不当に崩しかねず、その余波は大きなものとなりそうだ。