早期教育が過熱している。ある保育園では0歳から保育室にひらがなとアルファベット表を貼り、1歳から机と椅子に座らせて鉛筆を持たせている。しかし、その保育園を経て小学校に入学してきた子どもたちは「荒れている」ことで有名だというーー。本稿は、小林美希『ルポ 学校がつまらない――公立小学校の崩壊』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。
英会話、スイミング…
習い事漬けで疲れ切る
中学受験は、ある種の早期教育の現れだ。この早期教育の流れは保育園にまで及び、保育士が困惑している。今や、保育園でも英会話やリトミックなどの「課業」を教えるため定期的に外部講師を呼ぶことが多くなっている。
子どもたちは2~3歳になると、土日は英会話、スイミング、ピアノ、リトミック、公文などの習い事漬け。保育士たちが「子どもはいつゆったり家族と過ごすのだろう」と心配する。
都市部のある認可保育園では、保護者からの強い要望で年長クラスはひらがなや計算のドリルを行っている。課業やドリルを実施しない保育園では、保護者がいわゆる勉強を求めて幼稚園に転園するというケースもある。中学受験の過熱から、もっと早いうちに席を確保しようと小学校受験を考える親も珍しくない。都内のある保育園運営者が、保護者の実情を語る。
「教育熱心な保護者であると、登園しない土日は習い事漬けです。子どもはハードスケジュールになるので、月曜に登園すると疲れ切っています。子ども同士の噛みつきや引っかきなどのトラブルが月曜に起きることが増えました」
なかには「0歳からドリルをやらせて」と要望する保護者も少なくないという。
「習い事も、その子が好きなことを伸ばしたいというのであればいいと思うのです。けれど、泳ぐのが嫌だ、プールは怖いと言って泣きながら抵抗している子を「苦手なことを克服させる」といってスイミングに通わせる親もいます。乳幼児期に本人の嫌なことをわざわざやらせる必要があるのでしょうか。結局、子どもがしたいことではなく、親がさせたいことを習わせている。そこに主体的な学びがあるのか疑問なのです」
子どもは遊び込むことが
力を発揮する基礎になる
地方の認可保育園の運営者の川上博子さん(仮名)は、こう語る。
「保護者には何か勉強をさせていなければならないという不安や焦りから、英語などの勉強をさせたがる傾向があります。プリント学習のような勉強をしていると分かりやすいアピールをすれば、園児を集めるのが楽になる現実もあります。ただ保育現場からすれば、子どもにとって無理があるのがよく分かります」