新聞の陰謀論の見出し写真はイメージです Photo:PIXTA

反ワクチンやホワイト・ライブズ・マター、Qアノンなどの“過激主義者たち”と密接に関わっているのが、ネットに氾濫する偽情報や陰謀論。それらの偽情報の正誤を確認し、訂正するのが「ファクトチェッカー」の仕事だ。過激主義組織に関する研究と取材を行うジャーナリストのユリア・エブナー氏は、イギリスでファクトチェックを行うウェブサイトを運営しているウィル・モイ氏に取材を敢行。ファクトチェッカーたちの戦いの日々に迫る。※本稿は、ユリア・エブナー著、西川美樹訳『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』(左右社)の一部を抜粋・編集したものです。

コロナには漂白剤を飲めばいい
バカげたことが最も拡散する

 ウィル・モイはイギリスで偽情報と戦う最前線に立ってきた。彼が運営するファクトチェックを行うウェブサイト「フル・ファクト」は、コロナ陰謀論者の重点的な標的となっている。

「怒りのレベルが驚くほど上がっています」とウィルがわたしに言う。「パンデミックにまつわる主張や反論にかなり注目が集まって、それに伴い怒りや虐待が生じているのです」。フル・ファクトのスタッフ、とりわけ女性スタッフへの攻撃が目に余るため、彼らはスタッフへの虐待を減らすべく積極的に取り組んでいる。

 ウィル・モイは一風変わった経歴の持ち主だ。ファクトチェッカーは大半がジャーナリズムの出身だが、彼はもともと、盲目の上院議員で無党派のコリン・ロウ卿の下で働いていた。「彼は目が見えないので、僕がすべての報告書を彼に読んであげたのですが、なかには実にくだらないものもありました」とウィルは言う。そしてこう続ける。「あんなくだらないものを根拠に、この国をどうするかといった重要な決定がなされていたんです」。ロビーストに政治家がいいように使われるのを見て、なんとかしなくてはと彼はフル・ファクトを立ち上げることにした。

 パンデミックが始まると、最も速く拡散するのは最もばかばかしいものだとわかってきた――コロナの治療に漂白剤を飲めばいいといったアドバイスもあれば、ビル・ゲイツがワクチンを使って世界中の人間を監視する実験をしているといった説もあった。