危機が発生すると、いわゆる「ダニング=クルーガー効果」によって偽情報の拡散が煽られる。ダニング=クルーガー曲線によれば、あるテーマについてほぼ何も知らない場合、自分の知識や判断を過度に信じる可能性が高くなることがわかっている。コロナが現れた当初、皆このパンデミックについてほとんど何も知らなかったので、だからこそ陰謀論や非科学的説明を信じやすくなっていた。

 だが情報が入ってくるにつれて、たいていの人は複雑で曖昧な状況にもっと上手に対処できるようになった。それでも偽情報が押し寄せることで、頭を切り替えられない人も多かった。自分は何を知らないのかが、彼らにはわからなかった。

活動家は、世界を黒か白に塗る
それに対してグレーを差し込む

 ファクトチェックをすることは、目下のインフォデミック(編集部注/ソーシャルメディアなどを通じて、不確かな情報と正確な情報が急激に拡散される現象のこと)と闘うために役に立つとウィルは信じている。「考えを決めかねている集団、こちらが話を聞いてやるべき集団があるんです」と彼は断言する。どっちつかずの中道層とは、たとえば科学的研究は人口統計的にあまり多様性がないと感じているマイノリティのコミュニティだ。黒人の集団をワクチンの試験に参加させていないなら、どうして黒人がワクチンを安全だと感じられるというのか。

「それなら心配するのも当然だし、それは対処されるべきことです」とウィルは語る。

 彼は妊婦のことにも触れた。「彼女たちはいくつも心配を抱えています。この12カ月のあいだ、何かを勧められたかと思うと、今度はまったく違うものを勧められたりするんですから」。それに新薬は倫理上、妊婦を対象にした試験を行わないことが多く、胎児の発達における安全性を知ることは難しい。

 科学に一点の曖昧さもないなどということはありえない、とウィルは言う。

「有用な情報はだいたいにおいてもっと複雑です。ファクトチェッカーの仕事はこの世界を黒か白かに分けることではありません。活動家がこの世界を黒か白に塗る場所に、グレーの色合いを再び差し込むことです。私たちの仕事は往々にして、曖昧さを表に出すことでもあるんです」