性的な概念は万能ではない
理解して“捨てる”ことが必要
森山 そうなんですよ。常に説明するときに2段階にしなきゃいけなくて。同じことが、性的指向と、性同一性に関しても言えて、この概念自体は導入しないといけない。ですが、導入したら、もう1回捨て去ってもらわなきゃいけないときがあるっていうのが、けっこう大事だと思うんです。
たとえば性的指向っていうのは、どの性別の人に対して恋愛感情や性的な欲望を抱くかということだと説明しますよね。すると、ある女性の学生が、「私の友だちの男子は、女性が恋愛対象なんだけど、男性も性的欲求の対象なんですが、その人の性的指向は何になるんですか?」と質問してくれたんです。
恋愛対象と性的欲望の対象の性別がずれる場合、性的指向という概念はたしかにうまく使えない。でもそれはその友だちの性的指向が間違っているということではなくて、性的指向という概念が万能ではないからその現象を上手に説明できないだけなんです。このエピソードをその後の授業で使わせてもらいながら、性的指向概念は、いつでも使えるものではないんだよって説明するようになりました。
でも、それを理解してもらうためには、まず性的指向という言葉の意味を理解してもらわなきゃいけない。インストールして、1回パソコンを動かしてからアンインストールするとちゃんとパソコンが動く、そんな謎アプリみたいなものになっていて。
能町 ああー、ほんとそんな感じですよね。1個1個、全項目で、一旦インストールしてから捨てる作業をしないといけないわけですね。これは……基本的なところを伝えるだけでも大変ですね。
森山 性別に関しては、性表現(服装や容姿等において、性別に結び付けられた要素をどう表現するか)とか、出生時の割り当てとかいった要素もありますしね。
私の側で道具を整理して渡して、「理解できましたね、でもこの整理の仕方ってすごく大雑把なんですよね」まで納得してもらって、やっと一区切り。たしかに簡単ではないけれども、だからと言って「複雑だから理解できなくてもいいかな」と思われてしまってはいけないので、なるべく簡潔で効率的に説明できるよう、心がけてはいます。