AI分野におけるリスクが顕在化

 一方で、主要投資家の心理をたどってみよう。トランプ政権発足以降、多くの投資家は米国経済がより強くなると楽観に傾いた。政策の恩恵が見込まれるエヌビディアなどのAI関連銘柄、エネルギー銘柄など米国の株価はおおむね上昇した。

 ところが、1月24日、AI分野で米国の競争力を揺るがす事件が起きた。中国の企業であるディープシークが低コストの生成AIモデルを開発し、その無料アプリが米国のアプリストアで一時首位に立ったのだ。

 ディープシークの大規模言語モデルの開発コストは約560万ドル(約9兆円)と、スターゲートプロジェクトなどの米国案件を下回る。ディープシークは制裁をかいくぐり、汎用型の半導体と組み合わせてオープンAIと同等の性能を実現したようだ。

 ディープシークAIの実力がどれほどあるのかは未知数だ。しかし、27日には多くの投資家が米国のAI関連株を売った。米国のAI産業の優位性が揺らぐと警戒したからだ。「エヌビディアの先端AIチップ需要は、思ったほど伸びないかもしれない」との観測も高まった。エヌビディア株は急落し、日米欧の半導体関連銘柄も下げた。

 こうしたディープシーク・ショックに関して、現時点ではさまざまな見方がある。米国企業のソフトウエア創出力、ハードウエア関連の知的財産は、中国に勝っているとの見方は多い。ディープシークのAI開発体制や、実際に投じた金額が明らかになっていないため、同社の発表をうのみにできないとの指摘もある。

 ただ、エヌビディアに対する成長期待はあまりに高く、株価は割高なレベルに上昇していた。そのため、エヌビディアの株価はいつ調整が入ってもおかしくない状況だった。

 一連の状況を考えると、AI分野で米国は圧倒的に優位とするトランプ氏の前提条件が崩れるリスクが顕在化したともいえるだろう。