ドナルド・トランプ大統領ドナルド・トランプ大統領 Photo:Chip Somodevilla/gettyimages

2月1日、トランプ大統領はカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を、中国には10%の追加関税を4日から課す大統領令に署名した。1月末には、中国AI「ディープシーク」が出現した影響で、米エヌビディアの株価が暴落し、約88兆円もの時価総額が吹き飛ぶ「ディープシーク・ショック」が起きている。米中関係が世界経済を混沌とさせるリスクが顕在化する中、貿易戦争が激化すれば、わが国経済にとっても重大なマイナス要因になることは間違いない。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

ディープシーク・ショックの波紋

 1月20日、2期目のトランプ政権が発足した。トランプ新大統領の考えは「アメリカ・ファースト」であり、米国の産業には優位性があり、経済も世界のトップに座る実力があるとの認識だ。

 特に、AI(人工知能)分野において米国の競争力は圧倒的との思いが強いのだろう。優位性をさらに磨いて経済成長率を押し上げ、米国を再び偉大な国にするというのが同氏の主張である。

 トランプ氏は就任早々、国際会議で各国の有力企業に向けて、米国に投資して製造を行うか、米国に輸出して高い関税を負担するかの選択を迫った。国内のシェールオイルの増産を奨励し、産油国には原油価格の引き下げを求めインフレ率の低下を促す考えも持つ。そしてこの政策が、米国の大幅利下げにつなげるという考えも示した。

 ところが1月27日、トランプ氏の大前提が崩れかねない事件が起きた。中国のAIスタートアップ「ディープシーク」AIが出現したことだ。「ChatGPTを抜いた」と話題になると翌28日には、米エヌビディア(大手半導体メーカー)の株価が17%も暴落。5890億ドル(約88兆円)もの時価総額が1日で吹き飛んだ。まさにディープシーク・ショックである。

 ディープシークのAIモデルの実力は、詳細に検討される必要はあるものの、旧型のICを使い、しかも短期間に信じられないような安価で開発されたという。それが事実とすれば、エヌビディアの優位性の低下は現実のものになる。そうなると、トランプ政権の戦略の根本が崩れることにもなりかねない。

 トランプ政権のリスクは他にもある。最たるものが、トランプ氏の強引ともいえる関税政策だろう。他国との関係を悪化させ、米国の信用力を弱めることも考えられる。