「社長の急な方針転換に腹を立ててはいけません」
そう語るのは、転職エージェント「キープレイヤーズ」代表の高野秀敏さん。1.1万人以上のキャリア相談、4000社以上の採用支援の経験を持つヘッドハンターであり、「現場」と「経営者」の両方の視点で、「圧倒的に活躍する人たち」と関わってきました。
その高野さんがベンチャー流の「結果を出す働き方」をまとめた書籍『ベンチャーの作法』が刊行。発売たちまち重版し、“きれいごと”抜きの仕事論に、社員からは「ベンチャーにかぎらず全ての組織で役立つ!」、経営者からは「よくぞここまで書いてくれた!」と、SNSでも多数の感想が投稿されるなど異例の反響となっています。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「急な方針転換との向き合い方」についてお伝えします。

社長からの指示が「急に変わった」とき、仕事ができる人はどう考えて受け止める?Photo: Adobe Stock

経営者の指示は「急に変わる」

「先月始めた例のサービス、もうやめるんだってよ」
「この前はこっちのデザインでいいって言ったのに、今朝聞いたら変わった」
「うちの社長は、言うことがころころ変わるよね」

 困ったもので、ベンチャーでは「経営者の指示」が突然変わったりします。

 二転三転するのは当たり前、朝令暮改どころか朝令朝改さえあります。

大企業は「方針転換」ができない

 ですが、急な路線変更ができることはベンチャーの強みとも言えます。

 大企業が新規事業を始める際、そこには多大な時間、労力、資金をかけます。
 そのため一度始めるとなかなかやめることができません。

 たとえうまくいっていないとしても、「あれだけ準備に時間と金をかけたのだから、なんとしても成功させろ」と、上からお達しが出ます。

 心理学ではコンコルド効果とかサンクコスト効果とか言われる現象ですね。超音速ジェット機「コンコルド」の開発に予定を大きく上回る費用がかかり、途中で「このままでは採算がとれない」と判明するも、すでに投資した費用(サンクコスト)がもったいないからと、開発を中止できなかった例がもとになっています。

 実際、大手企業では赤字のまま何年も続けている事業などはざらにあります。

「途中でやめられる」ことを誇りに思うべきだ

 一方でベンチャーは、赤字事業を何年も続けていく体力がありません。

 少しでもうまくいかないと思ったら、すぐに撤退、路線変更します。
 経営者の一声ですぐに方針が変わります。

 一度始めてしまったことは容易に変えられない大企業からすると、ベンチャーのフットワークの軽さはとても羨ましいのです。

 これがベンチャーの強みであり、臨機応変に対応できる人だけが評価されます。

 水脈のない場所で井戸を掘り続けても、水は出てきません。
 潔く諦めて別の場所を探したほうが賢明です。

 ビジネスは想いが大事と言われますが、捨てることも大事なわけです。
 ですから社員も、経営者の二転三転する指示に食らいついていく必要があります。

(本稿は、書籍『ベンチャーの作法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)