営業がバイヤーと交渉をする際、バイヤーからさまざまな「要求」が寄せられることがあります。その背景にある「ビジネス環境からくる潜在的なニーズや課題」を理解することは、バイヤーとの理性的な対話を可能にし、成約率を向上することにつながります。
一方、感情面での理解も重要です。バイヤーの深層心理にはメカニズムがあり、その理解は、単発の商談のみならず、長期的にバイヤーとの関係を密にし、商談の成功率を高めていくことにつながると考えています。
バイヤーの心理、バイヤーの態度・行動変容のヒントについては、社会心理学や行動経済学の理論が参考になります。『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋して解説します。

「お宅だけ」をいかに提供できるか
人々は、入手困難なものや数が限られているものに高い価値を感じるという心理的傾向が「希少性バイアス」です。この概念は、1975年に心理学者のスティーブン・ウォーチェルらによって提唱されました。
営業や営業企画における希少性バイアスの意義は、「お宅だけですよ」というものをいかに提供できるかです。
例えば、希少価値の高い商品やプロモーションを開発する。季節限定品で数量限定のものを多めに持っていく。そうすることで、バイヤーの購入意欲を刺激します。
また、希少性のある専門部署のリソースを、協働プロジェクトに提供することも有効です。これがバイヤーの協働意欲を刺激し、現場の商談成立を高める支援をすることにもつながります。
「この新商品は、御社の要望に合わせてカスタマイズできます」など、留型商品を提案することも有効です。
得意先のお客様が感じている買い物体験上の課題をショッパーデータでフィードバックし、独自の売り場改善プランを提案することも、希少価値を高めます。得意先のお客様だけを調査すれば、特別感が出るのです。
注意点としては、特定の小売業を優先するプライベートブランドや留型などのカスタマイズプランを多用し過ぎると、他の得意先との協働関係を損なうリスクがあることです。また、自社ブランドとの差別性が薄まるリスクもあります。
カスタマイズ製品の運用に関しては、公平性と透明性の基準を明確にする必要があります。
※当記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。