営業がバイヤーと交渉をする際、バイヤーからさまざまな「要求」が寄せられることがあります。その背景にある「ビジネス環境からくる潜在的なニーズや課題」を理解することは、バイヤーとの理性的な対話を可能にし、成約率を向上することにつながります。
一方、感情面での理解も重要です。バイヤーの深層心理にはメカニズムがあり、その理解は、単発の商談のみならず、長期的にバイヤーとの関係を密にし、商談の成功率を高めていくことにつながると考えています。
バイヤーの心理、バイヤーの態度・行動変容のヒントについては、社会心理学や行動経済学の理論が参考になります。『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋して解説します。

専門家の意見を大切にする
「権威の影響力」とは、人物が持つ権威、専門知識、地位などの力によって、人の態度や行動に影響が及ぶという理論です。スティーブ・マーティン、ノア・ゴールドスタイン、ロバート・チャルディーニが提唱しました。
これもまた、商売における意義として有効に活用することができます。例えば、バイヤーは特に新しい商品の導入やプロジェクトを行う際、当然、リスクを抑えたいという気持ちが出てきます。
そこで、専門的知見を持つ人物や情報源から、情報やアドバイスを得るのです。そうすることで、バイヤーはより安心して導入の決定を下すことができます。営業は、取引の成立に至る可能性を高めることができるのです。
また、市場・消費者リサーチ担当者、財務担当者などが、営業の要請に応じて商談に同行し、専門的知識を活かしてバイヤーに影響力を与えることも有効な方法です。
さらに、サプライヤーたるメーカーの経営陣が定期的に小売業の経営とトップ面談を行うことで、協働関係を構築することも有効です。バイヤーの社内稟議が通りやすい環境作りを支援することにもつながるのです。
P&Gでカスタマーチームリーダーを務めた2000年初頭から、チームが担当している多くの得意先の社長、会長に定期的に会談ができる関係を作るようになりました。その頃から、次第に得意先の商品部のバイヤーやバイヤーの上司との協力関係が深化し始めました。
それは偶然の結果ではなく、この権威の影響力が少なからず機能していたからだと実感しています。
※当記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。