認知機能改善のカギは
「感覚神経」にあった!

「感覚神経の不調が認知機能の低下に関係している」そう感じた私は「感覚神経を正常に戻したとき、認知機能はどうなるか確かめるための研究」を始めました。

 まず、感覚神経を目覚めさせるため、いろいろな運動を試した末にたどりついたのが「強めの筋力トレーニング」でした。負荷の小さな運動では、感覚神経の感度や認知機能に変化が起きないのです。ただし、実践するのは高齢者が中心ですから、安全を考えて器具は使わず、自重(じじゅう、本人の体重)によって負荷をかける運動を選びました。こうして完成したのが「本山式感覚神経トレーニング」です。

 30種類ほどの運動を90分かけて、週に1回行うこのプログラムを、私が運動指導をしているMCIの人たちに実践してもらいました。ハードなメニューを最初はみなさんラクラクとやっていましたが、3カ月を過ぎた頃から「疲れた」「筋肉が痛い」といった反応が現れます。これは感覚神経の感度が上がっている証拠。この段階で検査をしたグループは、全員の認知機能が正常に戻っていたのです。

 それから20年以上、MCIや認知症初期の人たちにこのプログラムを指導して、1000人以上の方が健常な認知機能を取り戻しました。その経験から「認知機能改善のカギのひとつは感覚神経が握っている」ことを、今では確信しています。

本山式 認知機能改善30秒スクワットで
どうして認知機能が戻るのか?

 感覚神経の働きをよくすることが、認知機能の改善につながることがわかりました。そのしくみとは一体どのようなものなのか。私の推察は以下のとおりです。

 感覚神経がつながり、筋肉からスムーズに刺激が伝わるようになった脳の中では、
●記憶や思考にかかわる大脳皮質の働きを活発にする「覚醒作用(かくせいさよう)」
●生き残っている脳細胞が死んだ細胞の代わりをする「代償作用(だいしょうさよう)」

が引き起こされます。これまで受け取れなかった刺激に脳が反応し、もともと備えているさまざまな脳の働きが盛んになるわけです。衰えた認知機能が回復に向かうのもそのひとつ、と考えられます。

 一度つながった感覚神経は、加齢や運動不足でやや衰えることはあっても、死滅することはありません。その後は日常生活で生じる筋刺激だけでも、脳の活性化がはかられるようになります。また、認知機能回復のほかにも「記憶能力が上がる」、「潜在能力が呼び覚まされる」など、脳のリフレッシュ効果による副産物も期待できます。