マクドナルドが「安さの象徴」を脱し、過去最高益を達成できたワケPhoto:Diamond

物価高で値上げを免れない厳しい状況の中、業績好調を維持している日本マクドナルド。安さが売りだった同社は、どのように低価格路線から脱却したのでしょうか。過去の戦略を振り返りながら解説します。(グロービス経営大学院教員 太田昂志)

日本マクドナルドの業績が絶好調!
「低価格路線」からどう脱却したのか?

 日本マクドナルドの業績が絶好調です。2024年1~9月期の連結決算では、純利益が6年ぶりに同期間の最高益を記録しました。

 円安や物価高騰を受け、多くの企業が値上げに踏み切る中、客離れに悩む企業も少なくありません。しかし、日本マクドナルドはその逆風をものともせず、値上げ後も顧客に支持され続けています。

 かつては「100円マック」で親しまれ、安価な商品の印象が強かった日本マクドナルドでしたが、どのように「安さの象徴」から脱却し、値上げ後も成長を続ける企業へと変貌を遂げたのか。その秘訣を探ります。

 そもそも、日本マクドナルドが採用した低価格路線は、いつ頃から始まったのでしょうか? その歴史は、1980年代後半にさかのぼります。

 始まりは1987年、日本マクドナルドは、ハンバーガー+マックフライポテトSサイズ+ドリンクをセット価格390円で提供する「サンキューセット」を発表しました。輸入原材料の円高差益還元によるこの価格設定は、「ハンバーガー戦争」という言葉まで生み出し、その後、業界内での価格競争へとつながっていきます。

 さらに、1990年代に入ると、バブル崩壊を契機に価格競争は一層激化し、外食産業全体が低価格路線へと舵を切るようになります。

「価格破壊」を仕掛けた日本マクドナルドも、その競争の中で、1995年にハンバーガーとチーズバーガーの価格を大幅に引き下げました。ハンバーガーは210円から130円へ、チーズバーガーは240円から160円へと、約4割の値下げをしたのです。

 さらに2000年には驚くべき施策を打ち出します。なんと平日限定でハンバーガーを65円、チーズバーガーを80円で提供する「ウィークデースマイル」プログラムをスタートさせたのです。

 これらの低価格路線は、短期的には顧客数を増やし、売り上げ向上も見込める一方で、利益率低下が起こるなど、「薄利多売」に陥るリスクも伴うものです。

 当時の経済状況も影響していたとはいえ、なぜ、日本マクドナルドは低価格路線を打ち出したのでしょうか? この背景には、どんな戦略的意図が隠されていたのでしょうか?