
『黒牢城』で直木賞を
受賞した小説家の米澤穂信
岐阜県の北部・飛騨地方に位置する高山市。全国の市町村の中で最も面積が広く、観光都市として知られる。斐太(ひだ)高校は高山市にある県立高校で、県内で2番目に古い明治以来の校歴を誇っている。
岐阜県内の県立高校では例年、3月1日に卒業式が行われる。斐太高校では、卒業式の後に「白線流し」という伝統行事が加わる。NHKの全国ニュースなどで、その光景が放映されることもある。
男子生徒の制帽の白線と女子のセーラー服のスカーフを1本に結び合わせ、学校の前を流れる大八賀川に流す。校舎側に在校生が、対岸には卒業生が並ぶ。在校生はオリジナルソングの「送別歌」とともに旅立つ先輩の門出を祝い、卒業生は同じく「巴城ヶ丘別離の歌」を歌いながら思い出の詰まった校舎に別れを告げる――という情感あふれるシーンが繰り広げられるのだ。
この「白線流し」は旧制中学以来、80年以上続けられてきた。1996年にはフジテレビ系列で連続ドラマ『白線流し』(主演・長瀬智也)が放映された。
卒業生で最近のニュースになったのは、小説家の米澤穂信が2022年に第166回直木賞を受賞したことだろう。対象になった作品は『黒牢城』で、21年には第12回山田風太郎賞を受賞、また同作で週刊文春「ミステリーベスト10」や週刊朝日の「2021年歴史・時代小説ベスト3」で1位に選出されている。
米澤は中学2年生あたりからオリジナルの小説を書き始め、斐太高校―金沢大文学部を通じ作家活動に没頭、大学卒業後は高山市で書店員をしながら、執筆を続けた。01年に『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞して、小説家としてデビューした。『氷菓』はアニメ化され人気となり、米澤の名はアニメファンにも知れ渡った。14年には『満願』で山本周五郎賞を受賞した。
斐太高校の前身である旧制斐太中学を中退しているが、大正・昭和時代の小説家である江馬修がいた。1916年に『受難者』が当時のベストセラーになった。プロレタリア作家として活動し、日本共産党に入ったり、離党したりして、文壇からは遠ざかった。
旧制卒では、飛騨地方の文芸活動のリーダーになった人物が出ている。
福田夕咲は、早稲田大文学部に在学中に詩作を発表し、大正から昭和にかけて郷里の高山で詩社や短歌会を結成して、郷土文化の高揚に務めた。