眼科手術のおもしろさに
ハマっていった

 千里は、外科の手術を見ていて、同じ手術は2つとないとずっと思ってきた。だが、眼科の白内障手術は患者の個人差というものがほとんどなかった。器械出しの看護師も同じ手順で器械を出し、外回りも毎回同じ内容の手術記録を付けた。

 毎回同じ手術内容で、おまけにバタバタと慌ただしい患者の入れ替え。千里は当初、(ちょっとこれはどうかな?私の好きな手術じゃない)という気分だった。しかし途中から、だんだん眼科手術のおもしろさや不思議さに惹かれ、ハマっていった。

 網膜剥離の患者では、球後麻酔をかけたあとに、白目に3本の器具を差し込む。1本は灯りで網膜を観察する。2本目は水を流して中を洗う。もう1本は、レーザーである。この光凝固という方法でパチパチパチと、剥がれかかった網膜を焼き付けて固定する。

 千里は(目ってどうなっているんだろう)と不思議だった。目はとてもデリケートな器官で、ちょっとゴミが入っただけでも猛烈な異物感がある。ところが、患者さんたちは球後麻酔を打たれ、先生は角膜を切開して水晶体を新品に入れ替えたり、目にレーザーの器具を刺したりしている。こんなの、あり?

 千里はあらためて目の構造を教科書で調べ直し、目の持つ機能を学び直した。

(よし!もっと本格的に勉強しよう!)

 そう決めた千里は、飛行機に乗って東京まで行き、眼科の学会に参加した。一生懸命勉強しようと思ったが、学会は医者ばかりの集まりで看護師にはちょっと難し過ぎた。

 眼科の先生のことも千里は好きだった。おもしろい先生で、手の空いたときに、若い千里をからかうように明るく話しかけてくる。ただ、ときどき、言葉以外に手が伸びてくることもあり、「セクハラかよー!」ということもあったが。

魔法のように見えた
脱腸手術の手さばき

 短い手術といえば、形成外科も短時間でやる手術が多かった。巻き爪の手術とか、ほくろの除去とかを先生はゆったりとしたペースで悠々とやった。それでも15分くらいで終わる手術が多かった。1日に4件くらいの手術を丁寧にやるという感じである。患者と患者の入れ替えも時間をとってゆっくりやった。