患者は横向きで手術台に横たわる。臀部の方を切開して深く進んでいくと股関節に到達する。そこで先生は患者の太ももを掴んでゴリゴリッと股関節を外す。最初この場面を見たとき、千里はさすがにビビった。

 もろくなった大腿骨頭を削り取って人工関節に植え替える。骨頭を受ける臼蓋ももろくなっているので、人工臼蓋に置き換える。こうしてバキッと人工関節同士を嵌めれば手術は終了である。

 整形外科の手術は非常にダイナミックであると同時に、手の外科という分野もあり、指の手術をコツコツと細かくやることもあった。

最も長い手術は
なんと言っても脳外科

 同じ意味で、大きな手術の割に短時間で終わるのが呼吸器外科である。

 胸を開けて肺の部分切除をするのだから、どれほど大変なのかと、初めて手術についたとき千里は身構えた。ところが手術は粛々と進み、出血もほとんどなくあっさり終わった。

 千里にはその理由が分かった。

(そうか、胃がんの手術と違って再建〔摘出した胃を小腸で補う〕がないからだ。進行した肺がんならば、リンパ節郭清〔編集部注/がんの周辺にあるリンパ節を切除する手術〕や周囲との癒着で時間がかかるかもしれないけど、定型的な肺葉切除なら、それほど時間はかからないんだ)

 外科の手術の長さは中くらいである。胃がんの手術とか直腸がんの手術では朝から始まり、昼過ぎに終わるというイメージだ。難易度の高い、食道がん・肝がん・膵臓がんになると、朝から夕方までという長さになる。

 最も長い手術はなんと言っても脳外科である。新病院が完成した最初の数年(編集部注/千里のキャリア3年目に完成した病院)は、どういうわけか脳腫瘍の手術がとても多かった。千里は器械出しも外回りも何度も経験した。

「千里さん、明日は脳外の器械出しね。脳腫瘍だから、よろしくね」

 そう師長に言われると前日から準備に入る。準備というのは、食事のときに水分を口にしないことである。大好きなコーヒーも絶対に飲まない。トイレ休憩なんてないからだ。そしてカップラーメンとカロリーメイトを買っておくことも忘れない。

 脳外科の手術は、看護師を含めて全員が椅子に座って行う。手術時間が長いことと、顕微鏡を使うことが理由だ。千里は覚悟を決めて器械出しにつく。