
人生の彩りに必要不可欠な「趣味」。なかなか継続できる趣味が見つからない…という人に、著者が勧めるのは「芸術」分野だ。芸術とは音楽や美術だけではなく詩や小説、俳句や短歌、絵画や写真や演劇や工作など多岐に渡るが、特に「鑑賞型」より「実践型」のほうが断然おすすめだという。その理由とは――。本稿は、林 望『結局、人生最後に残る趣味は何か』(草思社)の一部を抜粋・編集したものです。
向いてない趣味は
無理に続けなくても良い
趣味を始めてみたものの、どうしてもうまくいかない。まったく見込みがないように思われる。そんなときは、無理をしてまで続ける必要はありません。
私にも、大人になってから始めてみて、全然物にならなかった趣味があります。その1つはピアノです。
ピアノを始めたのは藝大の教員になってからであり、40歳を過ぎてからの挑戦でした。藝大の教え子に先生になってもらい、買ってきた教則本を読みつつ、ごくごく基礎のところから練習してみたのですが、しばらくやっているうちにまるで見込みがないとわかりました。
なにしろ、手がまるで動かないのです。ピアノは右手と左手で違う動かし方をするわけですが、これにもまったく対応できません。子ども時代に訓練をしていたならまだしも、全くの初心者が、中高年になってから、自在に滑らかに手を動かすのは至難の業です。
半年ほど頑張ったのですが、これ以上の伸びしろはなさそうだったので、あきらめて練習をやめました。自分が下手なピアノを弾くよりは、ピアニストに伴奏をしてもらって歌うほうがいいと割り切ることにしたのです。
もちろん、世の中には中高年からピアノを始めても素晴らしい技量に到達した人の例は存在します。
最近有名なところでは、佐賀県のノリ漁師である徳永義昭さんという人がいます。徳永さんは、52歳のとき、フジコ・ヘミングさんの演奏に感動し、独学でピアノを学び始めました。
ノリ養殖の仕事のかたわら、1日10時間にも及ぶ練習を続けた結果、プロでも演奏が難しいといわれるリストの『ラ・カンパネラ』を弾くことができるようになったのだそうです。今では徳永さんをモデルにした映画の制作も進められているといいます(編集部注/2025年2月21日公開)。
こういう話を聞くと、何事も簡単にあきらめずに努力することの大切さを感じるわけですが、一方で趣味に時間をかけてばかりいられないという現実もあります。会社に勤務している人の多くにとって、前述したように自由にできるのは1、2時間程度であり、1日10時間を趣味に注ぐのは非現実的です。
万事をなげうって趣味に没頭できるならよいのですが、残念ながらそれが許される人ばかりとはいえません。
やはり、自分に使える時間と、適性と、伸びしろ、それらを正確に見極めた上で続ける・やめるを判断していく必要があるでしょう。