日鉄のUSスチール買収、まだチャンスはあるPhoto:Bloomberg/gettyimages

 USスチールに対する日本製鉄の買収提案がどれほど見込みがないように見えたとしても、日鉄が勝利する可能性をまだ排除してはいけない。

 ドナルド・トランプ米大統領はこの買収に反対している。だが大統領はTikTok(ティックトック)や暗号資産、イーロン・マスク氏、関税のタイミングについては考えを変えた。現段階では可能性がどれほどわずかに見えるとしても、この買収提案についても気が変わるかもしれない。

 さらに見直しを進めた結果、日鉄による買収を承認することは――大統領がよく口にするように――「常識」だと言う可能性もある。

 大統領が翻意すれば、現在37ドル(約5520円)前後のUSスチール株にとっては大きなプラスになるかもしれない。日鉄の提案は1株55ドル、総額で141億ドルだ。米国の製鉄会社、クリーブランド・クリフスは、日鉄が撤退し、5億6500万ドルの違約金を支払えば、買収に乗り出す可能性があることを示唆している。

 クリーブランド・クリフスが日鉄の買収金額に近い金額を提案しそうにないとしても、他にも買収に名乗りを上げそうな企業があるという見通しは、USスチールの株価にとって下支えになる。

 トランプ氏はUSスチールについて、外国企業に所有されるべきではないと述べている。この発言は、ジョー・バイデン前大統領が先月、退任直前に出した買収阻止命令と一致する。USスチールと日鉄はコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所に命令の取り消しを求めている。両社は、米国政府が政治的理由に基づき、あらかじめ決められていた決定を下し、事後にばかげた理由を挙げることで、両社のデュー・プロセス(適正手続き)権を侵害したと主張している。司法省の代理人は先週、裁判所に提出した文書の中で、政府はバイデン前大統領の命令を引き続き有効にしておくことを望んでいると述べた。

 この訴えは本案で成功する見込みが薄いとしても、トランプ政権は裁判所でバイデン氏の論拠を擁護しなければならないというという厄介なことになりそうな立場に置かれる。バイデン氏の説明がとても信じがたいものだったから、なおさら厄介かもしれない。