喜田村弁護士は、この結論にも疑問を感じると言います。「ジャニーズ事務所はマスコミの批判がなかったから自浄能力を発揮しなかったのではなく、マスメディアの批判を嫌悪し、これを峻拒し続けたため、マスメディアからの批判は最小化し、その結果、ジャニーズ事務所は自らを正しく律することができなかった」と考えるべきだというのです。マスメディアの批判を潰しておきながら、「マスメディアの批判がなかった」と、あたかも自然観察をした結果のように述べることは許されません。
以上の論理を鑑みれば、メディアがジャニーズ問題を報じなかった言い訳は、ほぼ完璧に打ち砕かれたはずです。若い記者は、この著書を理論的根拠として、ぜひ自社のアタマの古い幹部を説得していただきたいと思います。
女性記者の怒りを鎮めた
喜田村弁護士流のユーモア
さて、すごい弁護士といっても、喜田村先生は人間離れしたコンピュータのような人ではありません。ユーモアのセンスも優れています。
たとえば、文春がかつてある政治家と不倫をした女性(本人は否定)の記事を掲載したとき、その女性が記事の内容に反論する著書を出したことがあります。その中に、文春の女性記者が彼女を直撃したとき「この女性は、結婚もせず、カレシもいない不幸な女性だろう」といった印象が書かれていました。批判された女性記者はもちろんカンカンで、私は喜田村弁護士にすぐ「訴えてください」と頼みに行きましたが、先生はこう答えました。
「あながち、全部嘘ではないですからねえ(笑)。彼女は確かに結婚していませんから。しかし、明るく皆に好かれる女性記者であり、誰も不幸な人とは思っていません。とはいえ、裁判するほどのことかと言えば、どうでしょう。相手の負け惜しみのようなものではないでしょうか」
こうして、先生の冷静な判断で、みんな笑って話が済みました。