【燃え尽き?】40代で「あの頃の努力」ができなくなる、たった1つの理由とは何か。
次々と新たなビジネスを仕掛ける稀代の起業家、佐藤航陽氏。数々の成功者に接し、自らの体験も体系化し、「これからどう生きるか?」を徹底的に考察した超・期待作『ゆるストイック』を上梓した。
コロナ後の生き方として重要なキーワードは、「ストイック」と「ゆるさ」。令和のヒーローたち(大谷翔平、井上尚弥、藤井聡太…)は、なぜストイックに自分に向き合い続けるのか。
『ゆるストイック』では、新しい時代に突入しつつある今、「どのように日常を過ごしていくべきか」を言語化し、「私自身が深掘りし、自分なりにスッキリ整理できたプロセスを、読者のみなさんに共有したいと思っています」と語っている。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

【燃え尽き?】40代で「あの頃の努力」ができなくなる、たった1つの理由Photo: Adobe Stock

「35歳の壁」を越える戦略

 年齢によって、「戦略」は異なります。
 いいキャリアを築くには、「35歳までは全力疾走する」というのが、生物的にも社会的にも合理的です。

 この年齢までに得た成果やスキルが、キャリアの安定と成長を左右します。
 特にIT業界のように技術の進化が速い分野では、35歳になると最前線で活躍できなくなる人が増えます。

 IT分野では、「プログラマー35歳定年説」があるように、若いほうが新しい技術を早く身につけることができて有利です。

 新しい技術や知識を次々に吸収する力が求められますが、35歳を過ぎるとそのスピードが落ちるため、活躍の場が限られてきてしまいます

 多くの企業でも、35歳までに築いた経験や実績が、その後の昇進やポジションに直結します

 特に大企業では、35歳前後で「出世コース」に乗るかが決まり、それまでに結果を出していなければ、その後に巻き返すのは難しいでしょう

 また、社会全体を見ても、新しいチャンスは若者に多く与えられます。
 企業は柔軟で意欲的な若手に投資したがる傾向が強いです。

 35歳を過ぎると人生に安定を求める人が多く、経験豊富な組織ほどその事実を知っているので、チャンスは若手に優先的に与えられます

 そのため、若い時期に多くの経験を積み、成果を出すことが非常に重要になってきます。

 年齢と共に新しい知識やスキルの吸収力は弱まるため、企業も35歳を超えると採用や研修に慎重になります。

 転職市場でも35歳以上は条件が厳しくなり、柔軟性や学習力が期待されにくくなります

 このように、キャリアの選択肢を増やすためには、若い時期に多くの経験を積み、しっかりと土台を築いておくことが戦略的に有効なのです。

20~30代は
全力疾走したほうが有利

 20代は特に、人間関係もフラットに築きやすく、さまざまな人と学び合える貴重な時期です。
 なぜなら、同世代は「どんぐりの背比べ」の状態であり、大して差がついていないからです。

 しかし、35歳を境に状況は変わります
 社会でも頭角を現す同世代が増えてきて、年齢が同じでも明確に差が出てきます。

 成果を出した人は、同じように成果を出している人と交流する傾向が強まります。

 それまでフラットだった関係にも、微妙な距離が生まれていきます。
 30代になって成果が乏しいと、新しく知り合いを作るのも難しくなり、成長の機会も減っていく一方です

 さらに起業する場合、若さは大きな武器です。
 体力があり、新しいスキルを素早く習得できる若い世代のほうが、起業には有利です。

 もちろん、チャレンジは何歳からでも可能です。
 ケンタッキーフライドチキンの創業者、カーネル・サンダースが65歳で起業し、大成功を収めたように、遅咲きの成功例もあります。

 しかし、「傾向があること」と「例外があること」はまったく矛盾しません

 実際には、35歳を超えると新しいチャンスが減っていくのが現実です。
 そのため、35歳まで全力疾走し、35歳を迎えた時点で次の動き方を考えるのが今の社会では賢い戦略と言えます

意志に頼らず、習慣に頼る

 28歳を過ぎると脳の前頭前皮質の発達が終わり、新しいことへの挑戦が苦手になりがちです。

 しかし、この特徴を理解して対策を取ることができます。

 その方法の一つが、「意志」ではなく「習慣」の力を借りることです。
 意志力には限界があり、使いすぎると枯渇してしまうことが研究でも明らかになっています。
 意志力は、ゲームでいう「MP(マジックポイント)」のようなものです。

 特に逆境から這い上がった人ほどその力を使い果たし、心身が疲れ切ってしまうケースが少なくありません。

 そのため、意志の力を節約し、できるだけ多くの行動を「習慣化」することが長続きのカギとなります。

 また、28歳以降の脳の特徴を考慮して、新しいことに挑戦すること自体を「習慣」にしてしまうことが効果的です。

 日常的に小さな新しいことに触れる、または学習の時間をあらかじめルーティンに組み込むと、新しい挑戦への心理的なハードルが下がります。

 これにより、新たな学びや変化への適応が自然とできるようになり、成長を継続できるようになります

 私たちの思考には2つの異なる方法があります。
 まず一つ目は感性や感情に基づく「直感的な思考」です。

 右脳に関連するこの思考は、瞬時に素早く答えを出せるのが強みですが、多くのエネルギーを消耗するため、頻繁に使うと疲れやすく、精神的な負担が大きくなります。

 意志力も本能的な思考に深く関わっているため、使いすぎると燃え尽きやすく、うつやストレス障害のリスクも高まります

 もう一つは、物事を論理的に整理し、一つ一つ順序立てて処理していく「理性的な思考」です。
 左脳的なアプローチに近く、精神の消耗が少なく持続しやすい特徴があります。つまり燃費がいいのです。

 ただ、瞬発力が求められる場面には向いていません

「ゆるストイック」を続けるためには、この2つの思考をうまく使い分けることが大切です。
「意志力と直感」は重要な局面だけで発揮し、日々のルーティンや新しい挑戦は「理性と習慣」のほうに委ねることです。

 そうすることで、何事も無理なく続けやすくなります。

 たとえば、毎日の運動や仕事のスケジュールだけでなく、新たな活動や学びを日常的な習慣として取り入れることで、意志力の消耗を抑えつつも自己成長を図ることができます。

 これにより、エネルギーを効率よく活用し、少しずつ成長し続ける「ゆるストイック」のスタイルが実現できるのです。

佐藤航陽(さとう・かつあき)
株式会社スペースデータ 代表取締役社長
1986年、福島県生まれ。早稲田大学在学中の2007年にIT企業を設立し、代表取締役に就任。ビッグデータ解析やオンライン決済の事業を立ち上げ、世界8ヵ国に展開する。2015年に20代で東証マザーズに上場。その後、2017年に宇宙開発を目的に株式会社スペースデータを創業。コロナ禍前にSNSから姿を消し、仮想現実と宇宙開発の専門家になる。今は、宇宙ステーションやロボット開発に携わり、JAXAや国連と協働している。米経済誌「Forbes」の30歳未満のアジアを代表する30人(Forbes 30 Under 30 Asia)に選出される。最新刊『ゆるストイック』(ダイヤモンド社)を上梓した。
また、新しくYouTubeチャンネル「佐藤航陽の宇宙会議」https://youtube.com/@ka2aki86 をスタートさせた。