
AIと医療ナノテクノロジーにより、人々の能力と生活水準は向上していく。しかし、そうした変化にともなって生じる社会的問題を解決しなければならない。我々がAIとともによりよく生きるにはどのような政治が必要なのだろうか。※本稿は、レイ・カーツワイル著、高橋則明訳『シンギュラリティはより近く 人類がAIと融合するとき』(NHK出版)の一部を抜粋・編集したものです。
人間能力のネクストステージ
情報の融合が開く未来
過去2世紀にわたり、人間のスキルを向上させる第1の手段は教育だった。私たちの学習への投資は、過去1世紀で急増している。しかし、人間の自己向上はすでに次の段階に入っている。
それは人間がつくる情報テクノロジーと融合することで、人間の能力を向上させることだ。私たちはまだコンピュータを体や脳に埋めこんでいないが、それはまさにすぐそこまで来ている。
今では、ほとんどの人が、ほぼすべての人間の知識にアクセスできたり、タップするだけで膨大な情報処理を利用できるスマートフォンのような、毎日いつでも使っている脳の拡張機能なしには、仕事をしたり教育を受けたりすることはできない。だから、私たちのデバイスはすでに私たちの一部となっていると言っても大げさではない。20年前はそうではなかった。
これらの能力は、2020年代を通じて、私たちの生活にさらに統合されていくだろう。検索は、文字入力とリンクページというなじみ深いパラダイムから、シームレスで直感的な質問回答機能へと変わるだろう。あらゆる言語の組みあわせに対してもリアルタイムの翻訳がスムーズかつ正確におこなわれ、私たちを隔てている言語の壁はとり払われる。拡張現実(AR)がメガネやコンタクトレンズから私たちの網膜に常に投影される。
やがてARは私たちの聴覚にも作用し、最終的には他の感覚も利用するようになるだろう。ほとんどの機能や情報は、人間がいちいち要求しなくてもいい。AIアシスタントが常にそばにいて私たちの活動を見聞きしていて、私たちのニーズを予測する。2030年代には、医療用ナノロボットが、脳の拡張機能を直接私たちの神経系に統合しはじめるだろう。