「い、今からですか?」

 こちらの質問に答えることもなく、一方的に通話を切られた。支店の設備に何かあったのかも知れない。雪の重みで看板が外れたとか、スリップした車が突っ込んだとか。あるいは本部から突然の指示が届いたとか…。

 思い浮かぶことは全て悪いことばかり。これも、いつもいつもリスク対策ばかり考えている、いわば職業病のようなものだ。7階に向かい、支店長の部屋を見つけノックする。

「遅いぞ、待ちくたびれたわ」

「す、すいません。慌てて来て、浴衣でして」

「大丈夫だ、みんな浴衣だし。目黒課長は麻雀、大丈夫だな?」

 我が耳を疑った。何も聞かれることなく、麻雀のメンツに加えられていたのである。

「まあ、そんなに強くはないですが」

「昭和から平成一桁入行はなあ、麻雀は大体できるに決まってる。俺の見立ては正しかった、というわけだ」

「さすがですね、支店長!」

 お調子者の副支店長が合いの手を入れる。フロントでレンタルしたらしい麻雀マットと、牌が入ったアタッシェケースがベッドの上に転がっていた。

「さあてと、メンツも揃ったことだし、始めるぞー!ほら、目黒!突っ立ってないで準備しろ」

緊張感のカケラもなく
麻雀に興じる支店長たち

 牌を裏返しながら、かき混ぜる取引先課課長。点棒を揃える副支店長。ハイボールを作る支店長。その整然とした役割分担を見て、バカバカしくて、やってられなくなってきた。50歳を過ぎて上司の麻雀相手をやらされるなど、思いもしなかった。

 横浜の最深積雪量は、午後9時の時点で18センチにも達していた。ほんの数時間前まで、庶務行員の神崎さんと2人で支店前の雪かきをやってきた私の足腰は既に悲鳴を上げていて、一秒でも早く床に着きたかった。

 なお、神崎さんの活躍ぶりはこの連載の『「能無し野郎だな!」カスハラ客に暴言を吐かれた「メガバンク支店の庶務行員」の驚きの前職、業績危機を救った行為に感動…』に記してある。よかったら一読してほしい。