ビジネスパーソンの後ろ姿写真はイメージです Photo:PIXTA

銀行支店で誰よりも早く
出勤する「庶務行員」

 銀行には「庶務行員」という職種がある。ロビーやATMコーナーで来店客の列を整理したり、郵便局や官公庁に使い走りに行ったり、いわば何でも屋である。支店を訪れ、ATMコーナーに立っている初老の男性がいたら、その人だと思って間違いない。

 新卒でこの職務に就く人はほとんどいない。ほとんどが中途採用であり、前職の経歴はさまざまだ。接客経験者が向いてはいるものの、警備を兼ねることから警備員、警察官、自衛隊員だった人もいる。

 前職で長年に渡り仕事を極め、シルバー世代にさしかかった人が多い。ある程度のポストまで登り詰めた人にとっては、面食らうこともあるだろう。自分の娘ぐらいの年齢の総務担当から「郵便局に行ってこい」と指図されることを受け入れる度量がないと務まらない仕事だ。

 庶務行員は支店の誰よりも早く出勤し、鍵を開け、冷暖房のスイッチを入れ、清掃を始める。ゴミ出しを終えて、一通りのルーティンワークを終え、一番早く出社してくる行員を迎えいれる。冬場であれば、暗く寒いうちから、行員が気持ちよく働けるように準備をして下さっている。

 その後も、切れかかった電球を交換し、本部から宅配便で届く店内掲示用のポスター、来店客用ノベルティ、食堂に届く食材などの重い荷物を、一人で所定の場所に運ぶ。なかなかの肉体労働である。

ATMコーナーはピカピカ
丹念に掃除する神崎さん

 私がみなとみらい支店に着任したのは、冬のはじめだった。これから働く町を知りたくて、着任初日はいつもより30分前に到着するのが、私の転勤ルーティンだ。かれこれ10数回も転勤すると、このルーティンは体に染みついている。そして、いよいよ新天地に来たという実感がこみ上げてくる。

 北風に巻き上げられた落ち葉でいっぱいの出入り口を丹念に掃除しながら、出勤に急ぐサラリーマンに笑顔であいさつしている男性を見つける。この人が庶務行員だと一目で分かる。

「おはようございます。ご苦労さまです」

 彼は声をかけられ驚いていたが、すぐに私が新任の課長だと悟ったようだ。