
元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルに端を発したフジテレビの問題では、トヨタ自動車などの多数の大手企業が同局でのCM放映を見合わせる事態となった。また、フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングスについては、取締役相談役を務める日枝久氏の“長期政権”に対しても批判の声が上がっている。コーポレートガバナンスの専門家であるハーバードビジネススクールのチャールズ・ワン教授に、同社が抱える問題、そして再生していく鍵について解説してもらった。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
フジテレビからスポンサーが大量撤退した
真っ当な理由
佐藤智恵 元タレント中居正広氏と女性とのトラブルへの対応が問題視されているフジテレビジョン(以下、フジテレビ)及びフジ・メディア・ホールディングスが、現在、深刻な経営危機に直面しています。コーポレートガバナンスの専門家として、一連の問題をどのように受け止めていますか。
チャールズ・ワン フジテレビ問題を最初にニュースで知ったとき、それほど驚きませんでした。
日本企業には伝統的に「体面を保つ」「階層を重んじ上司に従う」「波風を立てずに沈黙する」といったことが重視される文化がありますから、今回も昔ながらの手法で対応してしまったのだろうと思いました。社内で正式に調査したり、迅速に説明責任を果たしたりすることよりも、できるだけ内密に処理することを優先してしまった結果でしょう。
その一方で、「もしかしたら、この事例は日本企業全体のコーポレートガバナンス改革を推進するチャンスになるのではないか」とも思いました。これほどガバナンスの重要性を知らしめ、なおかつ、世間の注目を集めるケースはありません。
この10年間で、日本企業のガバナンスは飛躍的に改善したとはいえ、いまだ改革が進んでいない企業も多々あります。こうした企業にとって、一連のフジテレビ問題は、企業文化、ガバナンス、リスクマネジメントを変革する良い機会になると思います。
佐藤 なぜ、今回、子会社で発生した一つの事案が、親会社の経営を揺るがすほどの大きな問題に発展してしまったのでしょうか。