早く沸かしたいという潜在ニーズがいくら出てきても、もしかしたらそのニーズは限られた価値観を持つ小集団にしか刺さらないかもしれません。もしくは一過性かもしれません。しかし、単身と2人世帯の増加という社会環境と連動していると確認できれば、それが一過性ではなく、持続性のあるニーズであると見極められるのです。
この関係性を示したのが下の図です。図の上側は性善説のアプローチでも得られる「顕在ニーズ」。下側は性弱説のアプローチでのみ得られる「潜在ニーズ」です。横軸は社会環境との連動性の高低を軸としています。

社会環境と連動しているニーズは持続性があり、発売した新商品が売れ続ける確率も高くなります。一方、連動性が低い場合は一過性の可能性が高く、新商品の売れ行きが長続きしないケースが多い。「タピオカブーム」「たい焼きブーム」といった、「○○ブーム」と呼ばれるものの多くがこれです。食品やアパレルなどのブームは、日本人の食生活や生活習慣の変化に連動したものではないからです。

高杉康成 著
この図では、潜在的なニーズであり、社会環境との連動性も高い左下のニーズに基づいた新商品が高収益性と持続性を併せ持っています。キーエンスはまさに、この類いのニーズを集めて新商品開発に生かしているのです。そしてこの分野に取り組む結果として、「世界初」「業界初」といった画期的な新商品を発売し続け、それが持続的に売れる。これこそがキーエンスの高収益性の源泉です。
「顧客ニーズ志向」「マーケットイン」という考え方は決して間違っていません。しかしながら、顧客ニーズへのアプローチを間違うと、顕在的で持続的ではない右上のニーズを拾ってしまいます。にもかかわらず、「顧客ニーズ志向」といった言葉が一種の印籠のように使われて、社内の誰も止めることなく「売れない新商品」「もうからない新商品」を連発する企業もあります。ニーズの集め方にも、性弱説的なアプローチがあると認識し、仕組みをつくり込む必要があるのです。
【ポイント】
◆「顧客ニーズ」「マーケットイン」の印籠的な使用に注意
◆潜在ニーズの収集には性弱説的なアプローチが必須
◆社会環境との連動が、新商品の持続性に影響を与える