顧客ニーズにはいくつかの種類があります。例えば、新しいチョコレートパフェを作るというような、個人の趣味嗜好が大きく反映されるような新商品開発のニーズがその1つです。この場合、ある人が「バナナがたくさん入ったチョコレートパフェが欲しい」というニーズを出したとしても、そのニーズが多くの人に受け入れられるかどうかは分かりません。なぜなら、単にこのニーズを出した人の好みかもしれないからです。アパレル商品なども同様で、この種のニーズには「好き嫌い」が多分に反映されます。
次に、「現状何らかの方法でやっているが、もっと楽になったり便利になったりすればいい」という類いのニーズです。例えば、先ほど紹介した「1分でお湯が沸くポット」などはこの類いのニーズに基づいて開発されています。
潜在ニーズを的確に捉えて
成功につながった電子ケトル
従来は、大容量のお湯を沸かせるポットが主流でした。それだけたくさんお湯を使う機会があったからです。しかし昨今の家族構成はというと、単身と2人世帯の比率が全世帯の50%以上を占めています。つまり大家族が減って、一度にたくさんのお湯を必要とする場面が減ったのです。代わりに、1人や2人といった人数で、少なくていいからすぐにお湯が使いたいと望む世帯が増えました。
この変化をうまく捉えて、新しいカテゴリーを生み出すほど大成功したのが電子ケトルです。このように、現状何らかの方法でやっているが、その方法では都合が悪くなったり不便になったりした場合に出てくるニーズこそが潜在ニーズといえます。潜在ニーズの発見が成功につながるのです。
話を先ほどの「小さいマウスのニーズ」に戻しましょう。このニーズはどちらの類いでしょうか。もし、前者の趣味嗜好型のニーズだとすると、それが好きな属性の人たちにしか売れません。本質的な困りごとではないからです。
一方、後者の困りごと解決、便利系のニーズだった場合には、さらに深掘りしないと本当のニーズが分かりません。「そもそも、なぜそんなに小さいマウスが必要なのか」「現状はどういった方法を採用していて、なぜそれではダメだと感じているのか」を追究する姿勢が求められます。
このような視点で捉えようとすると、「顧客ニーズを取ってきて」と頼めば比較的簡単にニーズが収集できるというような性善説的な姿勢では難しいことが想像できるでしょう。「より潜在的なニーズは顧客から直接的には拾えない」という性弱説視点でのアプローチが不可欠なのです。