B君は実は「ミスが続いていなかった」
もうひとつのパターンSide2を見てみましょう。シチュエーションは先ほどと全く同じで、AさんがB君の仕事の悩みを聞いています。
A 食欲ないの?
B そういうわけじゃないんですけど……。
A 会社で何かあったの?
B ミスが続いてて……今日も上司のCさんから「君、やる気あるのかね」って言われました。
A 何をミスしたの?
B 会議の時間を勘違いしてて、遅刻しちゃったんです。
A ミスしたのって、いつのこと?
B 昨日です。
A その前は?
B この月曜ですね。
A じゃあ、その前は?
B え~っと……。あれ、思い出せない。
A ……。
B あ~、入社してすぐの頃に一度ありました。でも、その時はCさんにも落ち度があったらしくて、あまり怒られませんでした。
A そうなんだ。月曜は何をミスしたの?
B Cさんが急に、「早く出せ!」って怒ってきて。でも、本当は「木曜まででいいよ」って言われてたんです……。なんだ、よく考えてみれば、自分のせいでミスしたのは、昨日だけだったんですね。じゃ、なんで僕、こんなに落ち込んでるんでしょう……。
Side2のやり取りを見ると、全く違った景色が見えてきましたね。
「なぜ」と聞かれたB君は、無意識のうちに「思い込み」を答えていた
今、何が起きたのか、考えてみましょう。
Side1で「ミスが続いている」と言っていたB君でしたが、実は「ミスが続いているということ自体が、B君の“思い込み”だった」のです。B君は、本当は自分が思っていたほど、ミスをしていたわけではなかったのです。
しかしSide1では、Bさんはそのことに自覚的ではありませんでした。しかも、話を聞いているはずのAさんも、Bさんの回答を鵜呑みにしてしまいましたね。話を聞くAさん二人は真の問題を見失い、関係も悪くなってしまいました。残念ながら、これでは建設的な会話とは言えません。ちなみに、Side2で使っているのが事実質問です。
どちらがB君の問題解決に役立ったか、二人の人間関係を良くできたかは明白ですよね。
本書で詳しく解説しますが、このように「なぜ質問」、つまり理由や原因を直接尋ねる質問がダメなのは、第一に相手の「思い込み」を引き出し、「解釈のズレ」を生じさせてしまうからです。
(本記事は『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』の一部を抜粋・調整・加筆した原稿です)