新入社員の頃に読んでおくべきだったと、これほど悔しい気持ちになった本はない。NHK「おはよう日本」でも取り上げられ、新入社員のバイブルとして60万人以上のビジネスパーソンに読みつがれている『入社1年目の教科書』。多数の企業で新人研修のテキストとして採用されている「新社会人のためのガイドブック」だ。
ライフネット生命保険株式会社の共同創業者・岩瀬大輔氏の語る「50のルール」は、キャリアの長いベテラン社員や、指導する立場のマネージャー層にとっても発見の多いものばかりだ。本稿では、本書から得た学びとして、「うまい質問のコツ」をお届けする。(構成:川代紗生)

入社1年目の教科書Photo: Adobe Stock

上司が怖くて声をかけられない…
「質問恐怖症」のための3つのルール

「自分でちゃんと考えた? もうちょっと質問の仕方、工夫したほうがいいよ」

 20代前半の若手社員の頃、上司にそう指摘されたことがある。どうも、質問の仕方が下手すぎるというのだ。

 質問一つで「仕事ができるかどうか」はすぐにわかるから、いまのうちに改善しておいたほうがいいかもね、とアドバイスをもらった。

 まだ経験が浅かったこともあり、混乱した。そう言われても、わからないことは他の人に質問しないと、解決しようがない。

 遠慮して聞かないままでいると、業務に支障が出る。いったい、何が正解なのだろう?

 同じような悩みを抱いたことがある人も、いるのではないだろうか。

 SNSなどでもたびたび話題になる、「忙しい上司・先輩への質問の仕方」問題。人見知りでメンタルが弱く、相手の顔色をうかがいすぎてしまう……。

 そんな、内向的な性格でもすぐに使える、いい質問の仕方はないだろうか。

 そこでぜひ参考にしたいのが、『入社1年目の教科書』で提案されていた質問の極意だ。

 今回は、ポイントを3つに絞ってご紹介したい。

デキる人の質問術① まずは自分で調べる

 新人に任せる仕事というのは、最初のうちは、「誰でもできる作業」であることが多い。

「誰でもできる仕事」ということは、すでにマニュアルができていたり、前任者の記録が残っていることが多いものだ。

 社内のデータベースを検索したり、マニュアルをあらためて読み直したりしたら、先輩に聞かなくても答えが見つかった、ということはよくある。

 著者であり、ライフネット生命保険株式会社の共同創業者・岩瀬大輔氏は、本書でこう語っている。

わからないことが出てきた時点ですぐに頼るクセをつけると、いくら丁寧に教えてもらっても、自分のスキルとして定着しない恐れがあります。本当に部下のことを考える上司であれば「自分で調べたのか」と問い返してくるでしょう。(P.45)

 入社したばかりの新人の場合、わからないことだらけだ。

 自分で調べてもどうせわからないことは明らかなのだから、それなら最初から聞いたほうが早いという思考回路で、すぐに先輩に聞きたくなってしまう……。そんな人も多いだろう。

 質問しそうになったその瞬間に、一度立ち止まって、できる限り調べたか考え直してみる。3日前に教わったことを忘れているだけだった、というケースもよくあるものだ。

デキる人の質問術② 自分なりの仮説を立てる

 自分で調べてみても答えがわからなかった場合、次にやるべきなのは、「仮説」を立てることだ。

理解できた部分とわからない部分を確認する。一通りその問題について考える。自分なりの仮説を立ててみる。そのうえで、理解できない部分を質問する。予習、つまり自分なりの準備をしてから質問するのが、正しい質問の仕方であると思ってください。(P.45-46)

 質問下手な人にありがちなケースだが、先輩に質問をする以前に、実は、自分が聞きたい内容が具体的になっていない、ということがよくある。

 その結果、「ここがよくわからないんですけど……」という、漠然とした質問を、先輩に投げかけることになる。会話のキャッチボールが不必要に増えてしまうのだ。

 後輩「ここがよくわからないんですけど……」
 先輩「どれ? 何がわからないの?」
 後輩「これを進めてるんですけど、この先をどうすればいいかわからなくて」
 先輩「どこまでは終わってるの?」

 というように、「先輩が解決するべき課題」に辿り着くまでに何往復もしなければならないことになる。

 今思えば、「もうちょっと質問の仕方、考えたほうがいいよ」と指摘された頃の筆者は、相手の時間を奪うような質問をしてばかりだった。

 上司のことを「どうしていつもイライラしてるんだろう」と思っていたが、冷静に考えてみると、イライラさせていたのはこちらの非効率な質問が原因だったのだ。

デキる人の質問術③ 質問はメモを見せながら

 実は、今回紹介する3つのポイントのうち、この3つ目がもっとも重要であり、かつ、周りと差がつく点ではないかと思う。

 本書では、「予習をする際、仮説まで考えたら、それを紙に書いてください。質問をするときは、その紙を上司や先輩に見せながら行ってください」と書かれている。

 本書でも、筆者の岩瀬氏が、この「メモを見せながら」というやり方の素晴らしさを再認識したというエピソードが紹介されており、とても印象的だった。

 岩瀬氏が、ライフネット生命開業前から親交があった社外の人とランチをしたときのことだ。お店のカウンター席で話しながら、「一応、ちょっと考えてきたからさ」と、一枚の紙を渡してくれたという。

 そこには、ライフネット生命の進む方向について、3つのアドバイスが書かれていたそうだ。

A4用紙3分の1程度の大きさの、箇条書きのシンプルなものでしたが、その人は3つの助言をわざわざ紙に書いてきてくれたのです。理解しやすかったと同時に、嬉しさを感じたことを覚えています。
それからというもの、思考を伝えるには、紙に書くことが望ましいと再認識しました。言葉が紙に残されていることで、思考も残るからです。それは、メモを書いたほうも、メモをもらったほうも同様です。(P.46)

 仕事が猛烈に立て込んでいるときに質問をされると、パッと内容が頭に入ってこなかったりするものだ。

 集中モードに入って資料を作成しているときにふいに声をかえられても、すぐに頭を切り替えるのは難しい。

 その点、具体的な質問内容や、それに対する仮説が紙にまとめられていれば、回答もしやすい。何度も聞き返したりするなど、余計な時間を使うこともない。

「ちゃんと自分で考えられる子なんだな」と、安心感を持ってもらうこともできるだろう。

 人見知りで話しかけるのが苦手、上司が怖くて聞きづらいなど、入社して間もないうちは、心が折れそうになる場面も多々あるだろうと思う。

 しかし実は、ほんのちょっとした言い方や仕草、小道具の使い方次第で、仕事はグッとスムーズになるものだ。

 明日、会社に行くのが嫌でたまらないという人や、自分の仕事の出来なさに嫌気が差している人にこそ、『入社1年目の教科書』の50のルールを知ってほしい。職場への恐怖心も、自己嫌悪も、少しずつ減っていくはずだ。