顔をおさえる男性写真はイメージです Photo:PIXTA

信頼していた部下が重大な不正をしていたことが発覚。部下が懲戒解雇処分を受けただけでなく、上司まで「管理責任」を問われて会社を追われることに……。部下が不正行為を犯した場合、その責任はどこまで上司に及ぶのだろうか?(社会保険労務士 木村政美)

<甲社概要>
都内にあるインターネット広告専門の制作会社。従業員数は200名。
<登場人物>
A:営業課長で32歳。独身。
B:総務部長で甲社の人事・総務部門の責任者。
C:Aの部下で30歳。友人の勧めで2年前から競馬にはまっている。独身。
D:甲社の顧問社労士。

乙社の売上金が入っていないようなんだけど……

 Aは大学卒業後大手メーカーに就職したが、会社の閉鎖的な体質が合わず1年で退職。当時設立5年目の甲社に入社した後、大口のクライアントを獲得するなど優秀な営業マンとして活躍した。その功績が高く評価され、2年前に30歳の若さで営業課長に昇進。その後は30名の部下たちの育成にも力を注ぎ、チーム全体の売上額は右肩上がりを続けていた。ところが……。

 1月中旬のこと。B部長がA課長を訪ねてきた。

「A君、ちょっといい?」

「何でしょう」

 B部長は周りにメンバーたちが誰もいないことを確認した後、低い声で尋ねた。

「乙社の営業担当は誰?」

「C君です。それがどうかしましたか?」

「さっき経理から、乙社の売上金が昨年9月以降全然入ってこないと報告を受けた。私も確認したが、8月まではきちんと口座に入金されている。ここと取引をやめちゃったの?」

「それはないです。今もC君は週1日の割合で乙社に顔を出していますし、広告依頼の注文も受けていますよ」

「じゃあどうして急に入金がなくなったのか確認したい。C君はいるかな?」

「いえ、外回り中です。戻り次第部長に連絡するよう言っておきます」

「ああ、そうしてくれ」