乙社は家庭向けの雑貨を製造・販売している会社で、5年前から甲社がネット広告の制作とメンテナンスを担当している。広告の効果で会社の売り上げは5年前の10倍に増えた。
「毎月甲社に広告費100万円を支払っても十分におつりがくる」
と乙社長(65歳)はとても喜び、当初からの営業担当であるCをかわいがった。
乙社の売上金はどこへ?不正の真相
夕方会社に戻ってきたCとA課長、B部長は応接室に集まった。B部長はCに、乙社の売り上げが昨年9月から口座に入金されていない理由を尋ねると、Cは下を向いたまま無言になった。
「C君、説明してくれないと乙社に支払い有無の確認を取らざるをえない。それでもいいのか!」
厳しい口調で問い詰めようとしたB部長をA課長は制止した。
「待ってください。私が事情を聞きますから、2人にしていただけますか」
B部長が退席したあと、Cは急に泣き崩れた。
「課長、申し訳ありません。こんなつもりじゃなかったんです」
「まさか、売上金を着服したってこと?どうして……」
「競馬で負けたお金を取り戻そうとサラ金から借金しました。でも返せずに困っていた時……確か9月の下旬だったと思います。営業で乙社に顔出ししたところ、乙社長が『今日は現金があるからそれで広告料を支払うよ』って、私に100万円をポンと渡してくれたんです」
「すると、渡されたのが8月分の広告代金で、本来なら9月末に口座に入金するはずのものだね?」
「はい。その日はサラ金の返済日で預かったお金を返済にあてました。その時は月末に出る自分の給料で穴埋めするつもりでした」
しかし実際には穴埋めをするどころか、毎月末乙社長から渡される広告料を競馬に使い、総額は400万円にも及んだ。広告のおかげで主力商品の売り上げが伸び、Cと良好な関係を築いていた乙社長が、広告料を現金決済に変更したのが仇になったようだ。
Cの告白を聞いたA課長は、驚きと強いショックを受け頭の中が真っ白になった。常日頃から仕事ぶりを高く評価し、自分の後任候補として信頼を置いていた部下が、取引先の売上金を使い込んでいたとは思いもよらなかった。