A課長の処分は重すぎる?専門家の見解は
「じゃあ、A課長を諭旨退職扱いにすることはどうですか?」
部下が懲戒処分を受けた場合、その上司も同様に懲戒処分を受けるかどうかは、下記の基準で判断される。
(1)責任の範囲
上司が適切な監督、指導を行っていた場合と、管理、指導をしていないもしくは不十分であった、不正行為を黙認・指示していたなどの場合では、状況が異なる。
(2)会社の規定
管理職の責任範囲や懲戒処分について就業規則やガイドラインなどの定めがある場合、その内容。
(3)法律と判例及び会社内での過去事例
過去の判例や法律、社内で過去に同じ事例があった場合の処分内容などを照らし合わせて、上司の懲戒処分の妥当性を判断する。
「ここで問題になるのは、A課長が管理上Cさんの着服を知ることができたかどうかです。Cさんの言動に不明点がなければ気づくのは難しいでしょう。それと確認したいのですが、売上金の管理はどの部署で行っていますか?」
「担当営業社員からの申告で経理が請求書を発行し、入金されると担当者に知らせます。売上金を現金で頂いた場合は、担当者がその場で領収書を切り、経理に入金します」
「売上代金の締め日と支払期日はどうなっていますか?」
「8月分の売り上げでいうと8月31日でしめて、9月30日が支払日です」
「そうなると、乙社とは継続的な取引があるので、売上金が9月30日に入金されなかった時点で、経理がすぐCさんに確認すれば良かった。A課長に部下の売上金を管理する権限がなければ責任を問うことは難しく、むしろ確認が遅れた経理にも問題があったと思います」
「そうですか…」
「もしA課長を諭旨退職とし、その後訴えを起こされたら無効扱いになる可能性が高いでしょう」
「わかりました。A課長の処分はもう一度懲罰委員会で検討します」
残された傷跡と組織の課題
B部長は翌日、甲社長にアドバイスの内容を説明し、再び懲罰委員会を招集した。委員会メンバーで再検討した結果、経理の管理機能が不十分だったとはいえ、売上金の着服は許せるはずはなく、Cの懲戒解雇処分は妥当とし、着服金を分割返済させること、そしてA課長はCの着服を知りえることは不可能で、管理不行き届きには該当しないとして処分はしないとした。そして不正防止のため、経理部門の売り上げ(売掛金)管理を強化するべく早急に案を講じることにした。
処分なしとの決定を受けたA課長だが、経理システムの不備を無視して、部下の監督不行き届きとして責任を自分に押し付けたB部長や経営陣の態度に心が傷ついた。
「Cのしたことは確かに許されないものだが、経理がすぐに確認していれば防げたはず」そう考えるとこれまで甲社で培った自分の努力が無駄に思え、仕事に対するモチベーションは大きく下がった。
「こんな気持ちで部下の指導なんて無理。もう続けられない」
A課長はCと一緒に1月末で会社を辞めることに決め、翌日B部長に退職届を出した。
※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。