「これは私が独断でしたことではなく、懲罰委員会で決まったことだ」

「どちらにしても会社を辞めなさいってことでしょう?納得できないのでC君と相談して労働基準監督署に訴えてやります」

「A課長は本気で労働基準監督署に駆け込むつもりだな。もし会社の判断が間違っていたとしたらトラブルになるかも。相談に行かれる前にD社労士の考えを聞こう」

Cを懲戒解雇処分にするのは妥当か

 翌日の夕方。B部長はD社労士事務所を訪れ、A課長とCの件についてのいきさつを説明、

「C君は懲戒解雇、A課長を諭旨退職扱いにしましたが、この処分は正しいですよね?」

 とD社労士に尋ねた。

「話はわかりました。ここはCさんとA課長の懲戒処分内容について、別々に考えてみましょう」

<取引先の売上金を着服した社員を懲戒解雇にするのは妥当か>
会社が社員を懲戒処分にするためには、次の(1)から(3)の全部をクリアする必要がある。
(1)就業規則への明記がされていること
「懲戒解雇」「出勤停止」などの懲戒処分は、就業規則に定める懲戒事由に基づき行うことが必要。ほとんどの企業では売上金の着服などの重大な不正行為は、懲戒解雇の事由として就業規則に明記されている。

(2)懲戒解雇処分にする理由が合理的であること
・重大な違反行為…売上金の着服は、会社に対する信頼を著しく損ない、会社の財産を不正に取得することで損失を与える行為である。
着服した金額の大きさや回数などによって処分内容を考慮するか否かの判断は、会社によって違う。(少額の売上金を1回着服しただけでも懲戒解雇になりうる)
・企業の信頼性保護:企業は社員の不正行為に対して厳正に対処することで、他の社員や取引先からの信頼を維持することが求められる。懲戒解雇によって、他の社員に対しても「不正行為は許さない」との明確なメッセージを送ることで企業秩序を保つことができる。

(3)就業規則に従った適正な手続きを行うこと
懲戒解雇を行う際には、当該社員に弁明の機会を与えるなど就業規則に従った適正な手続きを経てしなければならない。

「当事務所が預かっている甲社の就業規則には、会社の売上金を着服した場合は懲戒解雇と明記されている。Cさんの行為は懲戒解雇の合理的な理由であり、懲罰委員会で弁明の機会を与えた上での判断であるため、Cさんを懲戒解雇にする会社の決定は妥当かと思います」