センスや感性に頼らない!ユニークなアイデアを生み出す「ロジック」とは

「ユニークだけど売れない」アイデアから、看板商品を生み出すための方程式とはYUHEI IMAI
ビジネスデザイナー。神戸大学大学院を修了後、安井建築設計事務所、日本IBM、電通コンサルティングを経て、2016年に株式会社kenma創業。企業の見過ごされた強みを発掘して、その会社の看板商品・サービスを創り出す「フラッグシップデザイン」を提唱 。メモがわりに使えるリストバンドwemoは100万本を超える大ヒットを記録。その他、コクヨ初の賃貸住宅事業「THE CAMPUS FLATS Togoshi」、吸水スポンジタオル「STTA」、伊勢茶ボトルレンタルサービス「朝ボトル」など、数字で成果を示すことにこだわり、これまでにないユニークな商品・サービスを仕掛ける。グッドデザイン賞をはじめ、IAUD国際デザイン賞、フェーズフリーアワードなど社会課題解決を対象としたデザイン賞を多数受賞。東京都「デザイン経営スクール」総合監修・講師。
24年「ヒット商品を次々と生み出すデザイン会社」として、テレビ東京『カンブリア宮殿』に出演。25年2月に自身初の著書『すごいアイデアーー「尖らせて売る」ビジネス発想の公式』を上梓。

──「そのアイデアには市場性があるか?」を問うことは、アイデアの良しあしを評価するための「物差し」にもなりますね。

 その通りです。新商品や新サービスの開発に携わったことのある人なら、せっかくユニークなアイデアを提案しても、上司が何だかんだ理由を付けてつぶしてきたり、合議を繰り返すうちにどんどん角が取れて無難なところに着地してしまったり……という経験の一つや二つはあると思いますが、「市場性」を担保したアイデアなら、こういう壁を突破できるんですよ。

 そもそも、正体の分からない新規なものを避けようとする人は世の中に一定数います。新しいだけで実績のないアイデアはリスクの塊ですから、責任ある立場の人が直感的に避けたくなるのも当然です。だから「新しいビジネスを開発せよ」というミッションはダブルバインド(二重拘束)に陥りやすい。「ユニークなものを作れ」と「売れそうなものを作れ」を同時に求めるために判断基準がブレてしまって、どっちつかずの中途半端なアイデアが量産されやすいのだと思います。これを避けるためにも、あくまで出発点は「高い独自性」に置き、ここから市場性を高めていくという順序を踏むことが大事だと思っています。

──しかし、そもそもの出発点となる「独自性の高いアイデア」はどのように生み出すのでしょうか。ここには個人のセンスやひらめきが求められる気がします。

 ここにもちゃんとロジックがあります。例えば、僕が2016年にケンマを立ち上げたときから現在まで一貫して掲げている「フラッグシップデザイン」というコンセプトは、まさにケンマのフラッグシップなのですが、このコンセプトの元になったアイデアも、僕自身の強みやキャリアからロジカルに導き出したものです。

──どのようなロジックですか。

 ちょっと話が長くなりますが、僕、もともと建築家を志してたんです。大学も大学院も建築専攻だったし、最初の就職先も建築事務所です。今も建築はめちゃくちゃ好きなんですが、実は「絵がめちゃくちゃヘタクソ」っていう致命的な弱点があって(笑)。

 絵が下手だと、クリエイティブの完成度を競う建築デザインの世界で勝負するのは分が悪い。だから途中で挫折したんですが、絵を描く手前の「世界観やコンセプトを考える」のは得意だったので、それを生かせる場所はないかと考えました。で、「これだ!」と思ったのがビジネスコンサルタントという仕事です。

──建築家とコンサルタントって結構距離がありますね。

 それがそうでもなくて。コンサルって、頭の中に思い描いた戦略をパワポのスライドにアウトプットしますよね。建築家が建築物の構想を設計図としてアウトプットするのとすごく似ているんで。それに、コンサルのスライドは抽象概念の精度に重心があるので、絵が苦手でも描ける。

 コンサル時代は、既存事業の成長や新規事業の創出など、いわゆる事業開発が専門だったので、クリエイティビティやユニークネスをどんどんアウトプットできる環境でした。経営者とガッツリ組んで、ビジョンやパーパス、ロゴなどの「企業シンボル」を生み出していく作業は自分の適性にすごく合っていたと思います。ただし、ジレンマもありました。アウトプットが「抽象概念」なので、成果が測りづらいし、そもそも実行されないことも多くて不完全燃焼感があるんです。

 この二つの仕事を「どこで何をアウトプットするか」に着目して図解すると、建築デザインは「現場×具体」だし、経営コンサルの仕事は「経営×抽象」です。そこで、この図で空白になっている「経営×具体」の部分に着目すると、「“経営”レイヤーで、企業シンボルになる“具体”的な商品やサービスをアウトプットする」ビジネスが着想できる。これならもっと成果が出せるし、自分の独自性も生かせると考えました。

──二つのキャリアの組み合わせから独自性の高いコンセプトが生まれたんですね。

 そうなんです。しかも、単に組み合わせただけじゃない。「概念でなく商品をアウトプットするコンサル」「現場ではなく経営層にアイデアを提供するデザイナー」という、それまでの常識を覆す「新常識」を含んでいるのがポイントです。これはごく単純化した例ですが、独自性の高いビジネスアイデアを生み出す手順は、基本的にこれと同じです。

 アイデア発想法の古典的な名著に、ジェームス・ウェブ・ヤングの『アイデアのつくり方』があります。この中でヤングは「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と断言しています。「新しいアイデア」といっても、無から有をひねり出す必要はない。既存のものを組み合わせればいいんです。組み合わせの可能性は無限にある。大事なのは「新常識」を見いだす着眼点と、そのアイデアに市場性を持たせる工夫です。

──そう説明されると、特別なセンスがなくてもアイデアを出せそうな気がしてきます。

 ですよね。人類史上の大発見とか、世界を一変させるイノベーションを目指すなら特別な才能が必要ですが、普通はそこまで気負う必要はないと思うんですよ。僕がやっているのはあくまでビジネスデザインだし、クリエイターやビジネスパーソンが求めているのも、実用性のあるビジネスアイデアです。仕事でコンスタントに成果を出したいなら、感性や偶然に頼るのはリスキーなので、確実に成果の出るメソッドを自分の中に持っておくことは大事だと思います。