テクノロジーが社会の隅々まで浸透し、利便性や効率性は日に日に高まっている。しかし一方で、人間らしい主体性が危機にさらされていないだろうか。「コンヴィヴィアリティ」という概念を足がかりに、人間とテクノロジーの「ちょうどいい関係」を考察した『コンヴィヴィアル・テクノロジー』(ビー・エス・エヌ)の著者であり、デザインエンジニアである緒方壽人氏に、AIが台頭する時代に、テクノロジーと共生しながら、豊かな人間性を取り戻すための視点を聞いた。(聞き手/坂田征彦、音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美)
対話できるAIが一気に広げた「可能性空間」
──緒方さんは、2021年に出版された『コンヴィヴィアル・テクノロジー』で、人間とテクノロジーの共生について深く考察されていました。ChatGPTの登場で、さらに盛り上がりを見せている今のAIブームをどう見ていますか。
インターネットやスマホが登場したときと同様に、「やろうと思えばできること」が一気に拡大する瞬間に立ち会っていることを実感しています。今、一番関心があるのは、この「広がってしまった可能性空間」の中で自分は何をしたいか、という点ですね。過剰に恐れたり期待したりせず、できるだけ手を動かしながら、新しい道具の輪郭を見定めようとしています。
──少し前に画像生成AIが話題になりましたが、使う人が限定されている印象でした。それに比べると、自然言語生成AIの広がり方はスピードも範囲もすさまじいですね。
ChatGPTのような自然言語生成AIは、入力も出力も「言葉」というのがポイントですね。言葉は誰でも入力できるし、AI側からも言葉が出力されてくる。人間がさらに言葉で返し……と、無限に対話を続けることができますから。
──人間は、こうした自律性を持つ道具と良い関係を築けるでしょうか。
人間の問いにAIが答えたり、人間が立てた仮説をAIが検証したり、逆にAIに問い掛けてもらって人間が答えたり……。こうした対話を通じて、人間が何かに気付いたり、新たな発想を得たり、やりたいことが進むとすれば「コンヴィヴィアルな関係」といえるのではないか、と今のところは考えています。