
腕に巻くメモ<wemo>、緑茶のサブスク<Asa-bottle>、睡魔を撃退するアロマデバイス<AromaSHOT>……。あっと驚く着想で、さまざまな企業の看板ともいえるプロダクトを開発してきたビジネスデザイナーが今井裕平氏だ。他では見たことのない「独自性」と、顧客に求められ続ける「市場性」を両立させるビジネスアイデアはどのように生まれているのか。新鮮な発想が求められる全ての人が応用できる、今井流の思考術の方程式を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美、撮影/まくらあさみ)
独自性を損なわず市場性を生み出すための「要件」の作り方
──今井さんは「フラッグシップの開発」に特化したビジネスデザイナーとして活躍されています。この「フラッグシップ」という概念についてまず教えてください。
自社の強みを起点にした「独自性のあるアイデア」を、商品やサービスとして具現化したものを「フラッグシップ」と呼んでいます。簡単にいうと看板商品や看板サービスですね。これまで、主に中小企業とタッグを組んで、数多くのプロジェクトでアイデア作りから事業化まで伴走してきました。
フラッグシップは自社のシンボルになるものなので、他社の二番煎じ、三番煎じじゃ意味がありません。何よりも「ユニークさ」が不可欠です。同時に、ちゃんとお金を払ってくれるお客さまがいなければ、ビジネスとして成立しない。「独自性と市場性」をしっかり両立することが最大のポイントです。ただし、ここが難しい。一般的には「独自性の高いとがった商品ほど市場が小さい」からです。
──独自性だけを重視すると、ビジネスとしてニッチになりやすいということですか。
そうですね。この課題を独自性はキープしながら、市場性をできるだけ高める工夫を進めていくということでクリアすることになります。具体的に「お客さまの数を増やす」ための要件を設定して、それらを順番にクリアしながら、ビジネスの継続に必要十分なレベルまで「市場性」を高めていくのです。
──「要件」とはどのようなものでしょうか。
要件設定というと絞り込むようなイメージですが、むしろアイデアをブラッシュアップするための補助線のようなものです。僕の場合は、それを「対象、認知、動線」の3方向から設定します。出発点は、たった1人でもいいから、その商品やサービスを渇望する人を発掘すること。そして、その人に認知させる手段があるか、支払いまでの動線がスムーズに描けるかを検討します。この三つがどうしてもクリアできないアイデアは、最低限の市場性さえ獲得できないのでアイデアとしては失格となります。
この三つが満たせる場合は、さらに市場性を高める工夫を続けます。つまり「対象を増やし、認知を広げ、動線を短縮する」方向に要件を練り直し、それを満たす工夫をアイデアに反映させてブラッシュアップしていくのです。
こうしてアイデアと要件の往復をしつこく繰り返すことで、最初は「ユニークなだけ」だったアイデアを、本当に競争力のあるアイデアへと磨き上げていく。僕自身が何度もフラッグシップの開発に使ってきた方法ですから、効果があるのは実証済みです。