
周囲で何も音が鳴っていないのになぜか断続的に音が聞こえる――耳鳴りは不快ではあるものの痛みがないため、つい見過ごしてしまいがちだ。放置するとどうなるのか? 耳鳴りに隠された病気とは? 原因と対処・治療法を専門医に聞いた。(取材・文/フリーライター 楠本知子)
本来「ない」音が聞こえる
耳鳴りのメカニズム
「耳鳴りとは、音が何もしていないのにもかかわらず、何か音がしているように聞こえる症状のことです。日本人の4人に1人がこの症状を経験しているいるといわれています」
こう話すのは、オトクリニック東京院長で慶應義塾大学名誉教授の小川郁先生だ。耳鳴りには大きく分けると2種類ある。
「体内に血流などの“音源”があり、他人も聞くことができる『他覚的耳鳴り』と、体内に音源がないのに本人には聞こえる『自覚的耳鳴り』です。ほかに、外耳に耳垢がたまったり、水、虫などが入ったりして耳鳴りを起こすケースもあります」
他覚的耳鳴りの場合、基本的に、医師が診察した際に音源を探して治療することで耳鳴りが聞こえなくなる可能性がある。しかし、多くの場合は自覚的耳鳴りだという。外耳と聴覚中枢を結ぶ聴覚路に何らかの障害が起き、その結果、その人の耳には音として感知されてしまう。
耳鳴りで悩む人の多くは、「耳鳴りがうるさいから聞こえが悪い」と訴えるというが、実は耳鳴りのある人の約9割に「難聴」がある。耳鳴りと難聴は表裏一体の症状なのだ。
「耳鳴りの音色は、難聴で聞こえなくなった周波数と類似しているという特徴があります。高齢者の場合、一般的に高い音が聞こえなくなってくるため、高齢者の耳鳴りは『キーン』『シーン』『ピー』など、金属音・電子音のような高い音が聞こえます」
高齢者でなくても、音楽を大音量で聴いたり演奏したりする人、日常的に大きな騒音の中で生活しているような人も同様。このほか、結核の特効薬のストレプトマイシンやカナマイシンなどの薬の副作用で起こる耳鳴りも高い周波数の耳鳴りがする。