昼休憩が20分しか取れなかった行員が
「40分を残業としてつけさせてもらいます」
「目黒課長、昼休憩が20分しか取れませんでした」
私が所属する預金担当課の部下・美濃田管理主任がわざわざ申し出てきた。管理主任、略称は「管主」。課長代理の手前のポジションであり、課長を補佐し係内のリーダーとして管理する役回りなのだが、50歳を過ぎてのこの役職であれば、過去の人事評価に何かしら悪いことでもあったのだろうと考えてしまう。
「40分を残業としてつけさせてもらいます。よろしいですね?」
この言い分が良いか悪いかと問われたら、良いとは言えない。午後6時に退行したはずが、6時40分に退行したことになる。1時間の昼休みは労働時間から差し引かれているのに対し、残業は通常の賃金とは異なる割増賃金であり、明らかに手取り給与が変わってくるからだ。
忙しい支店に配属されたのは、私が指名したからではない。人事部が命じたからである。だが、彼は怒りの矛先を人事部にはぶつけず、手短にいる気の弱い万年課長の私には容赦がなかった。彼は出世という束縛から放たれている。上司からの評価だけを気にして生きている人間ばかりの職場で、これほど自由な者はいない。
「美濃田さん、昼に何の仕事があったんですか?美濃田さんじゃないとできないことだったんですか…」
「課長!質問に答えて下さい!どうなんですか?もう一度聞きます!」
人が話している間に被せるように遮り、自分の満足がいく言葉だけを導こうと畳み掛けるやり口は好きになれない。自分は議論していると勘違いしているようだが、相手には不快感しか残らない。
「良いのか悪いのかと聞かれましたが、その答えは私には分かりません。人事部などに問い合わせてみます」
私の銀行は、社内イントラネットに繋がっているPCに勤怠管理のシステムがあり、勤務開始時刻と終了時刻を入力する。自己申告なので、実際より多く、もしくは過少に申告する者もいる。
例えば、午後6時にPCからログアウトしているのに、午後9時に終業したと申告した場合は、直属の管理者が検証することになる。この辺りは、拙著『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』に詳しく記している。