人事部からの回答を待たず
昼休みの件を労基に通報

 翌朝。我々2人だけで開店の準備をする。気まずい空気が流れている。

「課長、ご報告ですが、労基に相談しました。例の残業代と昼休みの件です」

 労基は言わずもがな労働基準監督署のことであり、「相談」は「通報」を意味する。

「相談したら何かまずいことでもありますか?それと、人事部からの回答をまだ聞いてませんよ」

「そ、それは回答がまだ返ってきて…」

「40分ぐらいの時間給なんか、課長はどうでもいいと思ってるんでしょ!」

「そんなことは言ってないじゃないですか」

「おはようございます」

 ちょうど山川課長代理が出勤し、事態はエスカレートせずに済んだ。開店の後、この件を支店長に報告する。腕組みをしながら聞いていた支店長が、話を遮った。

「それで目黒はどうしたい?」

「は?」

「美濃田をさ。あいつ、お前のことナメてんだよ。それだけのことじゃないか?労基にタレこんだヤツを穏やかになだめた方がいいか、それとも痛い目に遭わせた方がいいか。まあ、俺はどっちでもいいや。目黒はどうしてほしい?」

「いや、支店長にお任せします」

「そうか?じゃあ、今すぐ美濃田を連れてこい」

 支店長室から内線で美濃田氏を呼ぶ。ほどなくしてドアがノックされた。

「おお、お疲れさん。朝の忙しいところ、すまないねえ」

「いいえ、大丈夫です」

「目黒課長から聞いたんだけど、なかなか昼休みが取れてないんだって?美濃田さんに負担をかけてしまっていて、申し訳ない」

「そ、そんな、支店長からそんなお言葉をいただくなんて、もったいないことです」

「どうして美濃田さんばかり大変になっちゃうのかなあ?なぜ、皆がしっかり休めるようにならないのかなあ?」

「何遍教えたってろくに覚えないババアが、いかに多いかってことですよ」

「そうかあ?皆優秀だと思うんだけどなあ」

「預金担当課は崩壊してると思いますよ。こんな体制でも課長は見て見ぬフリですから。部下が休憩を取れないのは管理者の怠慢でしょう」

「目黒課長だって、本当はしっかり休んでもらいたいと思ってるよ。だけど、目の前にお客さんがいる商売じゃないか。そうはいかないもんだろ?」

「いや、ダメですよ。労働法違反を管理者が黙認してるなら、やっぱり出るところに出ないと、この会社は良くならないですよね」

「では、お客さんを待たせても昼休みが優先というわけですか?」

「仕方がありませんよね。現場の人数を減らされて、仕事が回らない。誰が悪いかと言われれば、人事部じゃないですか?」

「美濃田さんは会社を良くしたいんでしょ?だったら一緒にどうしたらいいか考えましょうよ」

「そうですね、役に立たないオバサンたちには辞めてもらって…」