犬のしつけ方、知ってるか?
10年前にも聞いた「部下の扱い方」
「思い上がるなよ!」
支店長は、外に聞こえるほどの怒鳴り声を上げた。
「ペラペラと分かったようなこと言ってんじゃねーぞ!周りを無能扱いする前に自分のことを少しは考えたらどうだ?お前の方こそよっぽど使えないヤツだわ」
どこについていたのだろうか。支店長のスイッチが入ってしまった。
「労基に通報したらしいな。お前がやってることはな、お前のくだらない不満のはけ口ぐらいの話じゃ済まされないことだぞ。分かってるのか?」
「わ、私はですね、課長が部下に昼休みを十分与えないことに…」
「お前さ、目黒課長をなめてんだろ?俺が任せた課長を否定するってことは、俺を否定するということだぞ」
「い、いや、その…私が労基に電話したのは一般論として問い合わせたまでで…銀行の名前は言ってなくてですね…」
「じゃあなんで『通報した』って言ったんだ?脅しか?お前さ、目黒課長が困ってるのを見て楽しんでるのか?クズだな。お前の顔なんか見たくないわ。出ていけ!」
美濃田氏は一目散に支店長室から出ていった。
「いいか。デカい声出せば、あんなもんさ。ナメられたら、どんどんつけあがるだけなんだよ。犬コロと同じさ。ご主人様だってことを分からせてやらないと」
支店長の一言を聞いて驚いた。私が八潮支店で取引先課の課長に昇格し、初めてとなる部下への扱いに手をこまねいていた時、堂島支店長から言われた言葉だった。
「犬のしつけ方、知ってるか?まず横っ腹を思い切り蹴り上げる。そうすると人間は怖いんだって分かる」
このくだりも前述の拙著に記してある。10年経過しても違う人から同じことを言われる私は、やはり部下を持つような器ではないんだと感じてしまった。
それにしても、私の銀行では支店長へのマニュアルに「部下が言うことを聞かない際は犬だと思って脅かす」などと書かれているんじゃないだろうか。まあ、私の銀行の組織の根底にある、ひとつの企業文化なのだろう。

目黒冬弥 著
美濃田氏は2カ月後、本部の総務管理に関する部署へ異動となった。支店における業務とは少し毛色が違う、あまり人と関わらない業務であり、本人にとっても向いているのではないかと思った。
「おい、昼メシ行ってくれよ!メシを食べるのも仕事だと思え」
色々な考え方を持つ者がいる。昼休みすら取らずにただただ目の前のお客さんを待たせずに対応する者。そのように頑張っている姿を見せ、人事評価のためにアピールする者。自分のことしか考えず、美濃田氏のように訴えてくる者。
一部の地方銀行のように、窓口における昼の一時休業があれば解決できた問題かも知れないが、なかなか難しいところである。
この銀行に勤めて四半世紀が経過した。さまざまな部下と上司に出会った。今日も私はこの銀行に感謝しながら、懸命に業務を遂行している。
(現役行員 目黒冬弥)