NHK大河ドラマ『べらぼう』で田沼意次を演じる渡辺謙さんNHK大河ドラマ『べらぼう』で田沼意次を演じる渡辺謙さん Photo:Paras Griffin/gettyimages

田沼意次の時代は
どういう時代だったのか

 NHK大河ドラマ『べらぼう』の視聴率が10%を下回ったらしい。遊郭吉原を舞台に、現代ドラマでもあり得ないくらい露骨に色街の生業を描き出しているため、子どもたちに説明するのにも難儀だ。

 もちろん、吉原の花魁は「勝ち組」だから、それなりに楽しい人生だと満足した女性もいるだろう。だが、そういう道でしか貧しい女性たちが成功することを許さなかった社会への怒りとか、一般の女郎たちは悲惨な人生がほとんどだったことへの配慮は希薄だ。

 さて、このドラマの主人公は、喜多川歌麿・東洲斎写楽などを売り出したことで知られる出版屋・蔦屋重三郎である。ちなみに書店チェーンのTSUTAYAは、大阪府枚方市発祥で関係なく、創業後に江戸の快男児のことを知ったらしい。

 しかし、吉原遊郭の人ばかりでは大河ドラマらしくないので、重三郎が活躍した時代に幕閣の実力者だった田沼意次(老中格・老中1769~1786年)や、そのライバルの松平定信(老中1787~1793年)を登場させ、彼らの経済政策も紹介している。

 もちろん、重三郎は、意次の時代の自由で革新的な風潮で事業を伸ばし、定信の禁欲的な取り締まりと保守的な経済政策で苦しんだので、意次が善玉っぽく描かれている。

 そして、それを現代の積極財政派といわれる人たちが礼賛し、自分たちの望む政治家像と重ね合わせて盛り上がっている。

 私も小泉内閣の「小さな政府至上主義」の時代に、徳川吉宗、松平定信、水野忠邦による享保・寛政・天保の三大改革と小泉改革が似ていると批判し、意次の路線を称揚したが、意次は減税路線ではなかった。また、開国派だったのだから、昨今の国粋主義的な積極財政派が褒めるのも少し変である。

 そこで、もう少し客観的に、意次の時代がどういう時代だったのか、彼の政策の何が成功して何が限界だったのかを論じてみたい。