銀行で適用されている「5年ルール」とは
住宅ローンの返済が厳しくなったら…
2008年にリーマンショックなどの金融危機が起き、その際に同じ様なことが起きないために、中小企業金融円滑化法(通称:モラトリアム法)という法律が作られた。これは、中小企業の資金繰りを改善するために、金融機関の貸付条件を緩和したり、返済の猶予期間を設けたりする法律だった。これにより、自殺者が増えることはなく、事なきを得ている。2年間のみの時限法だったが二度の延長の末13年3月末で終了した。とはいえ、この際の資金繰り支援の姿勢はその後も継続することになった。それが、コロナ禍以降、毎月資金繰り支援を確認する動きとなったわけだ。
こうした中小企業向け融資と同様に、16万4046件の住宅ローンがリスケになっている。その申し込みに対する実行確率は97%を超える。ここでも、返済が猶予されているのだ。全国の持ち家世帯が3000万ある中で、住宅ローンの残債があるのが約半分だとしても上記のリスケの割合は全体の1%となり、99%は滞りなく返済していることになる。
住宅ローンは不動産に抵当権が設定されている。不動産を担保にしているからこそ、低利で借入をすることができるのだ。その不動産は値上がりを続けている。マンションは13年に始まる金融緩和以降、ほぼ2倍の価格に値上がりした。分譲戸建もコロナ禍のステイホームの反動から家探し需要が膨らみ、価格が2割上昇した。同様に都市圏の戸建用の土地価格も値上がりを続けている。こうなると、低利で元本返済が進む中、資産がインフレしているために、不動産を売却すれば住宅ローンは全額返済できる状況にある。銀行は担保不動産の資産価値の把握のため、洗い替えを行っている。住宅ローンが焦げ付く可能性が低いことは百も承知である。
また、住宅ローン返済が滞る主な理由は収入の減少や支出の増加、計画の甘さなどで、金利の上昇ではない。変動金利が見直されるのは半年に1回のケースがほとんどであり、多くの銀行では5年ルールが適用され、金利が上がっても返済額は5年間一定になる。これらの理由から、そもそも収入が減ることが最大の返済リスクなのである。
この様な状況を鑑みると、住宅ローンの返済が厳しくなったら、まずはリスケするに限る。前述の様に、ほぼ100%応じてもらえるだけでなく、先延ばしすればするほど資産価値が上昇してくれている可能性が高いからだ。特にマンションは、都心の売れ行きが良かったために用地価格が高騰し、建築単価も急騰しており、その合算である新築価格の値上がりが3年後まで現段階でほぼ決まっている状態にある。住宅ローンを負債と見る人が多いが、資産を持てるだけの証と前向きに捉えることを私はおススメする。
(スタイルアクト代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)